14・共同戦線
「おまたせフィオーレ、報告は終わったよ」
部屋に戻ると、ソファーに座った少女がトロフィーを大事そうに抱えながら振り向いた。
「あっ、おかえり......ってその2人は?」
彼女は俺に続いて入ってきた部下を見て、ほんの少し警戒感をあらわにする。
「この2人は俺の部下だ、同じ服を着てるだろ? とりあえず自己紹介といこう」
「あっ、どうも初めまして......スカッド・ガルドニクスです。一応大尉をやってます」
「わたしはエミリア! 気軽にエミって呼んでええよ。そっちの名前も教えてくれる?」
俺より重度のコミュ障であるスカッドはぎこちなく、陽キャ代表のエミリアは快活な挨拶。
2人共にボイスレコーダーの録音で、さっきまでの会話の流れは知っている。
「わたしはフィオーレと言います、『商業ギルド・マギラーナ』所属の副商業長です」
やはりこの世界にはギルドなるものがあるのか。
それにしても、商業か......冒険者ギルドじゃないんだな。
俺たち3人はフィオーレの正面に座る。
「してフィオーレ、商業ギルドとはなにを生業としているんだい?」
「えっ、白の英雄がギルドを知らないんですか?」
「僕らは見てのとおりよそ者でね、教えてくれるとありがたい」
隣にいるスカッドが、要点をサラサラとメモしていく。
「わたしたちマギラーナはね、商いによってこの国で一番のお金持ちになったの。魔導具を売ったりダンジョンのレアアイテムを市場に出したりしてね」
「なるほど、じゃあなおさら君が『グローリア』というテロ組織に追われる理由がわからんな。そこまでしてトロフィーを売りたかったのかい?」
机の上に、彼女は『トロフィー』をゴトンと置いた。
「さっきイグニスには言ったけど、これに封じられているのは世界を滅ぼす存在――――そんなのがテロ集団や闇ギルドに渡ったらとんでもないことになるわ」
「世界を滅ぼすって......具体的にどんななのかな?」
ペンを動かしながら、スカッドが質問する。
「わたしも伝承くらいにしか知らないの......、けど安全保障上の不安は取り除いてしかるべきよ」
「ふーん、でもさ......いくら君たちが『トロフィー』を確保したとしても。商業ギルドじゃテロ集団には勝てないんじゃないの?」
グサリと弱いところを突かれたようで、フィオーレの表情が曇る。
「さっきにしたって、俺が狙撃して助けなかったら君は今頃死んでただろうし。どうやってトロフィーを守る――――――ゴハッ!?」
「グダグダうっさいなお前ー! "フィオ"だって一生懸命頑張ってるんやから重箱の隅をつつくなぁ!」
ちゃっかりあだ名呼びしたエミリアが、スカッドをぶん殴る。
「俺はただ客観的事実を述べたまでで......、っていうか上官になにしてくれちゃってんの......滑走路70周いっとく?」
「上等やもやしマークスマン、ウチの体力舐めんなや」
物凄い形相でにらみ合う両者。
まーたこいつらはすぐ喧嘩する.......、フィオーレがドン引きしてるぞ。
「はいはい喧嘩は後で好きなだけしろ、あとフィオーレも今言われたことは重々理解してるんじゃないかな?」
2人をなだめながら、俺は正面の少女へ問う。
「商業ギルドである『マギラーナ』において、おそらく戦闘要員は君1人しかいない。けれど他の冒険者ギルドにも知られたくないから頼めない。こんなところかな?」
「う、うん......」
「ならテロリスト共を殲滅するのが一番だ、さて......改めて聞こうフィオーレ。君のさっきの言葉を」
しばし......と言っても2秒ほどだが、彼女は意を決したように口開く。
「白の英雄には――――テロリスト集団の殲滅を手伝ってほしい! 報酬はお金でもなんでも払う! あなたたちのその不思議な力なら、きっと奴らを倒せる!」
「なんでもと......そう言ったな?」
「えぇ......」
ふむ、覚悟は本物か。
その決意やよし。
「いいだろう、俺たちも手を貸そう。ただし――――――見返りとしてこの基地に勤務する人間全員分の食料提供を求める! 生鮮食品から乳製品まで幅広くだ」
どの道非常食では限界だ、モンスターなどクリスタルは取れても食えやしない。
これこそ互いの――――――
「......わかったわ! 食料はギルドで確保する。これで契約成立ね」
最善手だ。
「けどさ、テロリストを倒すと言っても根城すらわからんよ?」
「作戦ならあるわ"エミ"、数週間後にある【アルストロメリア】の宝剣祭。そこの優勝賞品を狙って連中は必ず仕掛けてくる」
「あっ、エミって呼んでくれた! それでそれで?」
「わたしはその祭のコロシアムに出る、出て正攻法で商品を取る! あなたたちには万が一に備えて待機しててもらいたい」
なるほど、商品狙いできたテロリストを一網打尽にしようというわけか。
彼女――――フィオーレは......、どんな痛い目に遭う覚悟も持っているようだ。