13・事情聴取
――――基地内 第3応接室。
強制着陸させ、ワイバーンごと俺たちは少女を拘束した。
こちらの力を未知のものと感じたらしく、素直に従ってはくれたのだが......。
「ムゥッ......!」
..................。
「っ......」
静寂。
ただそれだけが、応接室に広がっていた。
眼前に座った金髪っ娘はひたすらに警戒心を振りまいており、不機嫌そうにこちらを睨めてくる。
さぁ......気まずいぞぉ。
「とりあえず、名前だけでも教えてくれないかな」
「............」
沈黙〜......!!
ダメだ、全く答えてくれる素振りすらない。
さすがに喉元へナイフを立てるのはやり過ぎたか? せめてエミリアかスカッドを残しておくべきだった。
かくなる上は......。
「お菓子とかは好きかい? テーブルに置いてるのは好きに食べていいよ」
「......そうやって、わたしを毒殺するつもりでしょう?」
毒殺て......、いやまぁ疑われるのは無理ないか。
そもそも梱包さえ初めて見るだろう。
じゃあこれならどうだ。
「子供を毒殺とか倫理的にアウトだよ、食わないなら俺が貰うぞ」
俺は少女の目の前でクッキーを食べて見せる。
袋を破き、乾いた食感のそれを口へ放り込んだ。
「ほれ、食わんとなくなるぞ」
ドンドン食い進める俺を見た金髪っ娘は、口端からよだれを垂らしていた。
見立てに間違いなければ、彼女は相当な空腹のはず。
毒はないと証明された。
甘い香りに誘惑され、少女はゆっくりと手を伸ばした。
「これで......モグモグ、屈したなんてモグ、思わないでよね」
口いっぱいリスのようにお菓子を頬張った少女は、あっという間に盛ってあった分を平らげる。
すっげ食欲......、ってか思い切り屈してるじゃねえか。
「お腹は膨れたかい?」
「まっ......まぁ......」
赤面する少女に、ハリネズミのような警戒心はなかった。
人間は腹にものを入れると安心する、それはこの世界でも同じらしい。
「よければ名前を聞かせてくれるかな?」
俺の問いに、少女は口に中のものを飲み込んで答えた。
「フィオーレ......よ、それがわたしの名前」
「良い名だ、じゃあフィオーレくんに聞きたい。君はなんでワイバーンに追われてたんだい?」
わかりきった質問。
俺は部屋の隅に置かれたトロフィーを見ながら、あからさまに問いかけた。
あれは、フィオーレが直前まで大事そうに背負っていたものだ。
「あれ、白の英雄はあれが目的でわたしを捕えたんじゃないの?」
「あのトロフィーみたいなのがなんなのか、俺たちは知らないよ。君を拘束したのはこの基地に近づいたからだ」
「悪意はないと......受け取っていいのよね?」
「そう解釈してもらって構わない、もし悪意があるならあの時に君も撃墜していただろう」
彼女の碧眼から警戒は完全に消える。
「【グローリア】......」
「グローリア?」
出てきた単語を、俺は思わず聞き返していた。
「王国指定の"魔導士テロリスト集団"よ、わたしを追っていたワイバーンもそいつら。あのトロフィーは奴らにとっても、王国にとっても重要なものなの」
「重要とは?」
「安全保障に関わる部分だからあんまり言いたくないんだけど......、あなたたち白の英雄はグローリアの追手から助けてくれたから、ちゃんと話すわ」
一呼吸置いて、フィオーレは口開いた。
「あのトロフィーにはね......、世界を滅ぼす魔王が封じられているの」
「魔王ねぇ、いよいよファンタジーチックになってきたが、つまりグローリアはその魔王復活を目論んでトロフィーを狙っていると?」
「えぇ、だから折り入ってあなた達にお願いがある」
テーブルを叩いて前のめりになったフィオーレが、身を乗り出す。
「王国の安全のために、協力してほしい! 報酬は惜しまないわ」
「ほぅ......協力とは?」
「数週間後にここから北にある街――――【アルストロメリア】で"宝剣祭"というものがあるわ! そこへ一緒に来てほしいの!」
【アルストロメリア】。
調査で知ってはいたが、そんな祭りがあるのか。
「わかった、詳細はあとで聞こう――――まずは上司に報告してくるよ。フィオーレはここで待っていてくれ」
部屋を出ようとすると、フィオーレが「待って」と声を上げた。
「あなたの......名前は?」
「そういえば自己紹介がまだだったね、気軽にイグニスとでも呼んでくれ」
「わかったわ! イグニス」
今度こそ部屋を退出し、俺は分厚い防音トビラを閉めた。
「いかがでしたか、少佐」
すぐそこで待っていた副官――――スカッドとエミリアが、俺へ近寄る。
「我々のスローライフは遠のく一方だ、これを」
俺はポケットに隠していた"ボイスレコーダー"の録音状態を切った。
「俺が准将へ報告して帰ってくるまでに聞いておけ、デカイ嵐がくるぞ」
「「了解」」
この物語がキリ良い感じで纏まったら、次はもっとなろうのニーズに合ったものを書いてみたいね。
だからやりたいニッチな描写は今のうちにやるだけやっときます