12・初対面と礼儀
「少佐――――――ッ!!!」
ヘリから命綱もパラシュートもなしで飛び降りた俺は、物凄いスピードでグングン地面へ吸い込まれていった。
あっ、思ったより超怖えなこれ......でももう遅い。
小さな点だった目標がダンダン大きくなり――――――
「きゃあぁっ!?」
少女の声がこだました。
ワイバーンの背をギリギリ掴み、衝撃で大きく揺さぶられる。
あっぶね〜......、生きてて良かったぁ。
「ちょ、ちょっと......誰なのよあなた!! っていうかどこから!?」
腕の力でよじ登ると、金髪を風になびかせた少女が困惑していた。
服装は白が基調のブレザーに、チェック柄のミニスカート。細い足をニーハイで包んでいる。
俺は頬を吊り上げた。
「命の恩人に対してその態度はないんじゃないかい? 俺たちが助けてなかったら君はもう空の藻屑だったよ」
「えっ?」
察しはいい子らしい。
少女は警戒しながらワイバーンを制御する。
「もしかして、さっき追手を倒してくれたのって......」
「あぁ、危ないところだったね。まぁ撃ち落としたのは部下なんだが」
「でも......魔力を一切感じなかった、何者なの? しかもその服......まさかあの【白の英雄】!?」
「知っててくれて嬉しいよ、ところで――――――」
俺は、彼女が大事そうに背負う水晶のトロフィー? みたいなものを見た。
「もしかしてさっきの追手は、これを狙ってたのかな?」
「そうよ、もし今の話が本当ならお礼を言うわ。......ありがとう」
ふむ、存外素直な子だ。
この状況でもしっかり礼儀をわきまえている。
ワイバーンの操縦にも慣れているようだし、裕福な家でしっかりとした教育を受けてきたのだろう。
俺は腰にゆっくり手を伸ばした。
「このトロフィーはね、国のこれからを左右するかもしれない大秘宝なの......。さっきの追手はそれを悪用しようとする悪い人達だったんだ」
「ほう、なるほど......それは危なかったね」
どうもこの少女は、安堵すると思ったことを喋ってしまうらしい。
結構好きなタイプだ。
「あっ、落ち着いたらちゃんと自己紹介するわ。貴方は?」
「この上空で名乗ったところで、覚える余裕なんかあまりないだろう? 人の名前を覚えるのは苦手でね。ところで――――――」
「ん?」
ワイバーンを操縦するためか、一瞬だけ前方へ意識を集中させた少女に、俺は残像ができるほどの速度でコンバットナイフを首筋に突き付けた。
彼女の首筋に汗が浮かんだ。
「......どういうつもり?」
「可憐な少女にナイフを向けたくはないんだがね、言うことを聞いてもらいたい」
「騙し......たの?」
「嘘はなにも言ってないよ、だが君の味方だなんて一言も言ってないだろう? このまま君を帰すわけにはいかない」
あぁぁ......完全に俺悪役じゃん。せっかくラノベ的展開で美少女に会えたってのに。
でも口で言っても断られるだろうしなぁ......。
「わたしを殺したら、ワイバーンが操縦できない貴方も死ぬわよ」
「命は惜しくないさ、それはきっと君もだろう。けど――――――」
左手で水晶のトロフィーをコンコンと叩く。
「"これ"だけは失いたくないんじゃないかい?」
「ッ......!! 噂の【白の英雄】がこんな鬼畜だったなんて! ごめんなさい......お父様」
いやごめん、マジでごめんね。謝罪はこっちの台詞だから泣かないでくれ。
ちくしょう勢いで飛び乗るんじゃなかった......でもこのトロフィーが俺たちの転移に関係があるとしたら放っておけないし。
「措定の場所に着陸してもらうよ、名も知らない少女さん」
「はい......」
ぐぅぁっ......!! 初対面の女子を泣かせちまった。
ごめん! 基地に下ろしたら秘蔵のお菓子いっぱい上げるから!