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11・【サテライト・アイ】

 

「ほぉ、こりゃ盛り上がってる」


 ヘリのサイドドアから顔を出すと、遠くの方でワイバーンが空戦ドッグファイトを演じていた。

 空軍の連中のやり取りは全て聞いていたので、やることは決まっている。


 少女の方に敵意はない、おそらく後方のワイバーンから逃げてきたのだと推測できる。

 しかも空軍め、さり気なく少女の方を撃ち落とすつもりだったな。


 いざという時にそんな事実があれば、この大陸での信用は永遠に勝ち取れないというのに。


「パイロット、先頭のワイバーンがヘリとの距離4000を切ったら右サイドを向けてくれ」

「あいよー!」


 俺は椅子に座ると、横にいる副官を見た。


「スカッド、準備はできているな?」

「もちろんですよ少佐、異世界で女の子を助けるのは王道テンプレ展開です。俺これでかなりの読み手なんで読んだラノベの数なら貴方にも負けませんよ」

「わかっているじゃないか」


 大きな箱型マガジンを手渡すと、スカッドは対物ライフルにそれを差し込む。

 コッキングレバーの往復する金属音が響いた。


「ワイバーンとの距離4000! 機体を左に向けるぞ」


 パイロットの合図で、ヘリコプターが横っ腹を向けた。

 開いたサイドドアからは天空が広がる。


「あぁー、見えました」


 スカッドは、その驚異的な視力と空間認識能力を用いる射撃の天才だ。

 彼が40倍スコープを使えば、数千メートル離れた目標の顔までわかるらしい。


「先頭で逃げてる方は金髪の女の子です、後方2騎は40代くらいの女性です」

「男じゃないのか、以外だな」

「まぁあいつらかなりの悪人面してますよ、無抵抗の少女を追いかけ回して喜んでます」


 読みはほぼ当たりか。

 っとなれば話は早い。


「任意で撃て、オバ様たちは竜騎士らしくこの天空を墓標とする」

「大丈夫っすか、後でハッシュタグ付けてジェンダー論的な感じで呟かれませんかね......?」

「そういう炎上しそうなのはナシだよ、異世界まできてSNSの話なんざ聞きたくない」

「失礼しました、じゃあ固定お願いしますね」


 巨大な対物ライフルを構えるスカッド。

 俺はバイポッド(銃を固定するための足みたいなアクセサリー)を掴むと、肩でガッシリ銃身を固定した。


 これで照準はブレない。


「空戦を誉れとする竜騎士をライフルで落とすなんて、背徳感でゾクゾクしますね」


 この銃の有効射程は1500メートル......上空でかつ、スカッドの腕と眼にかかれば――――――


 ――――ドパァンッ――――!!!


 12.7ミリ弾が発射。

 サプレッサーによって抑制されているが、その音は凄まじい。

 ローター音すらぶち抜いてくる。


「今」


 遥か彼方で、少女を飛び越えて真後ろにいた竜騎士を貫いた。

 首から上が消え去り、


「命中、まず1騎」


 百発百中。

 そんな彼を、部隊では畏怖を込めた二つ名――――『サテライト・アイ』と呼ぶ人間もいる。


 中東紛争のとき、まるで衛星砲サテライト・ブラスターかのような狙撃の精密さを浴びたテロリストたちが、最初にそう呼んだらしい。


「狙撃ってのはゲームやアニメみたく、簡単じゃありません。だからこそ――――――」


 仲間の突然死を受け、回避運動に移ったワイバーンへスカッドは再び照準を合わせる。


「俺は貴方に見初められてから、誰より努力してきました」


 轟音が打ち鳴らされる。

 軽い放物線を描いた弾丸は、ワイバーンに乗っていた人間の胴体を2つに切り分けた。


 吐き切っていた酸素を吸ったスカッドは、対物ライフルを下ろす。


「良かったんです? もしかしたら金髪が泥棒で、追手の方が法執行機関だった......なんて可能性もあると思いますが」

「ウチの戦闘機に先制攻撃してきた時点で論外だ、それに金髪の方もタダじゃ帰さんよ」

「タダじゃ......、少佐まさか!?」


 俺は委託されていたバイポッドから手を離すと、立ち上がり眼下を見た。

 最後のワイバーンが、今まさに俺たちのヘリの真下をくぐろうとしていたのだ。


「じゃ、後を頼むよ」

「は? いや少佐! ここは空中で――――――」


 彼が言い終わる前に、俺はヘリコプターの床を蹴った。


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