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叙述トリ憑ク  作者: 御法 度
4/4

血 ――ケツ――

 

 8 おにのつくりかた


 付喪神は、長い間使っていたモノに魂が宿る話です。

 娘はまさに、そういったモノでした。

 この物語が始まる、ずっとずっと昔のこと。娘は物心ついた頃から虐げられていました。実の父に身体からだを犯され、実の母に精神こころを壊されていました。それが娘の生活でした。毎日、毎日。何年も、何年も……。

 次第に娘は心を失っていきました。モノとして扱われている内に、魂が抜けてしまったのです。娘は人の心を失ったのです。その空っぽの器に入り込んだのが、憑いたのが、今の娘でした。モノに神が宿るように、空っぽのヒトにも神が憑くのです。


「もしかしたらあなたにも、なにかが憑きかけていたかもしれませんね。悪行の数々を尽くしても、満たされぬ欲。罪の数々。それらは人の身では、心では、とても受け入れ切れないでしょうから」




 9 宴の夜


「そういうわけですから、私を吸血鬼にした鬼など存在しません。私は、勝手に、鬼になったのです」


 鬼の言葉は私の目の前を真っ暗にさせるのに十分だった。そんな。ということは、こいつは私を眷属にすることはできない――。

 勿体を付けるように焦らしてから、鬼はとどめを言い放った。


「あなたは、今回の食事に過ぎません」


 もう助からない。今度こそ本当に自らの結末を悟った時、私は形容しがたい叫び声を、地下に響き渡らせていた。鬼は嬉しそうに口元を歪めた。


「さて今日はどういう趣向にしましょうか。折角ですからあなたに相応しい最期にしてさしあげましょう。

 あなた、お名前は?」

(か、かこ。菓子です)


 鬼は開いた口に手を差し入れると、菓子箱から飴玉でも取り出すような気軽さで、歯を抜き取った。


「『辻占つじうら』と言うそうですね。お菓子の中に御神籤おみくじが入っているんですよ。昔、食べさせて貰ったのです。お菓子だけでも嬉しかったですのに、占いまで楽しめるのですから、子供心にそれはそれは幸せで――あの時だけは、母も優しく私を撫でてくれました」


 鬼はうっとりと、歯を指でなぞった。その根元からは、五ほどの白い糸のようなものが垂れ下がっていた。


「さて、占ってあげましょう。神経はどれくらいの長さでしょうか。なるほど、これはいいですね。あなたは長生きしますよ。あと3日は持ちそうです。うふふ」


 気の遠くなりそうな声で、鬼は語り続けた。


「次は金運を占いましょうね――」


 占い遊びは、たっぷり半時は続けられた。


「素晴らしい。この頃の人間ときたら、感情が死んだ者ばかりですから。まるで味がしません。

 しかし、あなたのその絶望は、最高の美味です!」


 鬼の黒髪が、私の頬を撫でた。完全に血が止まった右手首で、そっと触れてみる。ああ、なんと美しい毛先だろう。きっと美しい筆になる。そうだ。作り終えたら記録を残そう。艶やかな墨をたっぷり吸わせた筆で、蒐集品の記録を……。


「あらあら、反応が鈍ってきましたね。

 夜は長いのですよ。私を存分に楽しませてください。先に寝ないでくださいね――」


 獣のような咆吼が、私の意識を再び清明にした。鬼は、床に倒れていた扇子のホネを抜き取り、私の腿に突き刺したようだった。


「ふふ、これはいい気付けになりますね。ご安心なさい。あと二十はたはありますから、また眠たくなっても、すぐに起こしてあげられますよ」


 鬼は私の額から眉間、睫の付け根と、上から順番に唇を付けていき、そして左眼から流れ出る血涙をすすり上げた。さながら激しい口吻くちづけのように、その赤い舌を絡ませた。

 私は今にも気を失いそうな激痛に耐えるため、鬼の身体をきつく抱きしめた。この華奢な身体のどこに、人を投げ飛ばす力があるのか、不思議だと思った。だんだんものが考えられなくなって、私は乳呑み児に返ったかのように、鬼の乱れた黒髪の一房に、唇を触れさせた。最初は躊躇いがちに、すぐにたがが外れたように、激しく。夢中で吸い付いた。


「あは、くすぐったい」


 しかし離れてしまった。髪から伸びた粘液の一筋が、名残惜しげに切れた。私は母にねだるように、フデに笑いかけた。彼女も優しく微笑んで、見せつけるかのように、赤い舌をチロチロとはためかせた。恍惚の表情を浮かべた彼女の、なんと美しかったことか。

 頭のどこかで繊維のちぎれる音が鳴り響いた時、私は身も心も彼女の虜になっていた。

 こうして、宴の夜は幕を開けた。




『叙述トリ憑ク』 完


























 10 とうじょうじんぶつ


 フデ

 恐ろしく利く鼻と身体能力で菓子を捕らえました

 その正体は、女の生き血を啜る鬼


 菓子カコ(27)

 三日三晩かけてフデに貪り喰われてしまいました





































































































 その正体は、道具の名を持つ少女たちを手に入れ、その名に相応しいモノとして調教する異常者




 椅子イイギリコ(17)

 最初に洋館に連れてこられた少女。はらわたを裂かれました




 判子ナカコ(16)

 口紅のあとが印鑑代わり。首から上を囓られました




 障子ショウコ(14)

 長い髪が美しい、双子の妹。身体を両断されました




 梯子テイコ(20)

 長身を気にしていました。全身に銀の銃弾を撃ち込まれました




 扇子ミコ(10)

 借金のかたとして実親に売られました。計18本の肋骨を引き抜かれました































最終話が短めなのは、R18の箇所を泣く泣く削除したからです。

……おやおや、同名の小説が、ミッドナイトノベルズに投稿されているようですね。

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