すべてのはじまり
むかしむかし、緑豊かな王国がありました。
その王国には、とても可愛らしい女の子がいました。
キラキラ輝く金色の髪、青色の宝石を閉じこめたかのような瞳。
まっしろな肌に浮かぶ桃色の頬。
その姿はまるで天使のようでした。
その子が笑えば、枯れた花も笑い、
その子が泣けば、お空さえ泣きました。
街の人はみんなその子が大好きでした。
何より街の人を惹きつけたのは、その子の『こころ』でした。
その子は誰よりも優しく、誰よりも聡明だったたのです。
お腹をすかせ困っている人がいれば、パンを分け与え、
悪さをしてしまった人には、寄り添い手を差し伸べました。
その子もまた、街の人が大好きでした。
ある日のことです。街はいつもどおりの活気に溢れていました。
しかし、それまで雲一つなかった青空に、ぽたぽたとインクが落ちたような黒いナニカが広がります。
突然の出来事に街の人たちは驚き、誰もが上を見上げました。
すると、黒く染まった空がパックリと口を開けたのです。
中は何も見えません。空と同じように真っ黒だったからです。
それなのになぜ口が開いたと分かったのでしょう。
誰も答えは分かりません。
誰も考えることはできません。
そんな中たった一人、ナニカが起こっていると分かる人がいました。
あの可愛らしい女の子です。
キラキラ輝く金色の髪が風に波打ち、青色の宝石を閉じこめたかのような瞳は涙で揺れ、
まっしろな肌に浮かぶ桃色は消え失せていました。
女の子はその場に崩れ落ち、服が土で汚れることも気にせずただ呆然と空を見上げていました。
女の子はずっと見ていたのです。
青が黒く染まっていくなか、まるで空から糸でつるされた人形のように、黒い黒い染みの中へと街の人たちが吸い込まれていくのを。
すると、女の子の後ろに薄汚れたローブを身にまとった一人の老婆が現れました。
老婆に気づいた女の子は必死に助けを求めましたが、老婆は顔を歪めるだけで返事をしてはくれません。
女の子は考えました。
いったい何が起こっているのか、どうしたら街の人を助けることができるのかと。
その時です。
大きな地響きとともに、空からナニカが落ちてきます。
一つ、二つ、と数が増えていき、やがてベチャっと音を立て地面に落ちました。
女の子は怯えながらもナニカを見ました。
地面に落ちたときインクのように飛び散ったナニカは、一滴一滴、元に戻るかのように集まっていきました。
黒いモヤに包まれ、よく見えなくなったその瞬間、モヤがはじけ飛びナニカの姿が女の子の目に映りました。
それは、目がずり落ち、違う種類の動物を無理矢理繋ぎ合わせて人の形にしたような、おぞましい化け物でした。
次々に落ちてくる化け物は、同じような姿のものもいれば、まったく違う姿をしたものもいました。
女の子は悲鳴をあげそうになりましたが、化け物の胸のあたりに痣があることに気がつきました。
女の子の住む街ではみんな、体のどこかに花が咲いたかのような痣が浮かんでいるのです。
それが何を意味するのかすぐに分かりました。
女の子が化け物だと思ったものは、大好きな街の人たちだったのだと。
女の子は絶望しました。
街の人たちがおぞましい姿になってしまっこと、そして、大好きな人たちを『化け物』だと思ってしまったことに。
ふと女の子の前に影がさしました。
さっきまで後ろにいた老婆が、女の子の前に立っていたのです。
老婆は女の子に尋ねました。
「お前の命を捧げ化け物を元に戻すか、化け物を見捨てお前一人が助かるか。どちらを選ぶ。」
女の子は迷わず、自分の命を捧げると言いました。
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上を見上げていた街の人たちは、ハッと我に返りました。
黒く染まっていた空は青く澄み渡り、いつも通り輝いています。
何が起こったのか、街の人たちにはサッパリでした。
口々に話し合っていましたが、一人の若者が女の子の姿が見当たらないことに気づきました。
みんな必死に探しましたが、とうとう女の子は見つかりませんでした。
誰もが好きだった優しい女の子を失った村は、二度と活気に溢れることはありませんでした。
誰も笑うことはありませんでした。
―――たった一人を除いてわ。
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初めまして!
まずは、ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回が初投稿となるのですが、楽しんでいただけたら幸いです。