B級映画悪役令嬢
怒りのクソ映画レビューを投稿したのが、私の最後の記憶だった。
◆
華やかな王子の生誕祭。王子の婚約者である私はそのパーティーの主役の一人だ。
王子のエスコートで、右手を前に突き出す敬礼で迎え入れられた。会場には巨大な鉤十字の国旗が掲げられていた。
私が違和感を感じたのは、この王子の生誕祭パーティーが余りにも安っぽかったからだ。
いやセットにしてももっと金をかけるだろと鼻で笑いながら、私は手にしたワインを飲む。これブドウジュースだ。
なんだこの既視感は。いつもの頭痛がする。私には群発性頭痛の気があった。前世からそうだ。
あはは。前世ってなんだよ。
私は安物のカーペットに座り込み、手にしたワイングラスが床に落ちる。着ているほつれたレンタルドレスが赤く染まった。
「またかね君は」
王子が私に近づく。しかし私の手を取るような事はしない。
見下す王子の隣には、私の友人でもあるアンナが立っている。アンナは私に婚約者である王子の腕を取り、私にだけ見えるよう下卑た表情で見下した。
やめろ。その目で見るな。
「申し訳ございません王子殿下」
給仕が片付けようと近づくが、王子がいるため寄ることができずオロオロとしている。
王子が白いハンカチを取り出し、私に向かって落とした。
やめろ。その先を言うな。
――なぜ私は、こんなタイミングで思い出してしまったのだろう。
悪役令嬢というものをご存知だろうか。
その名の通り、悪役の令嬢である。令嬢であるからして、金や権力の力で主人公の邪魔をしてくるタイプの女だ。
それが私。ドロレス・アルテリオス。
アルテリオス公爵家の一人娘にして、王子の婚約者。私が泥棒猫から奪われないように執着したその立場は、このチープな世界でそんなものはクソほどの価値がないことを、私は前世から思い出したのだ。
この世界は、クソ映画だ!
「君とは――」
「王子。その先はおやめください」
王子の言葉を遮るなど、最大級の不敬だ。王子も周囲も顔をしかめる。
不敬を覚悟で私は遮るしか手がなかったのだ。
台本にないアドリブ? 知らないわね。
「無礼な女め! お前との婚約は破棄だ!」
ああ、言わせてしまった。止められなかった。
この一言はフラグとなっていた。
「大変です! 王城にゾンビの群れが押し寄せております!」
怪我をした衛兵が扉を開けて乱入してきた。
その顔面は土気色をしている。
「なにぃ!? 街はどうなっている!」
王子が衛兵に詰め寄った。
衛兵のその鎧も、ダンボールに銀の塗料を塗ったのかよというほどお粗末なものだ。
「兵も町民もすでにみんなゾンビ化……ゾン……ギヒヒヒヒイ!」
すでにゾンビとなっていた衛兵が王子の首元に噛み付いた。
「ぎゅえー!」
王子が衛兵を突き飛ばし、尻もちをつく。
「た、助けてくれ……誰か……」
『うおぁあぁぁあ』
王子に構っている場合じゃない。すでにすぐそこまでゾンビの群れが押し寄せている!
「浄火のポーションよ! 早く!」
偶然パーティー会場に用意をされていた浄火のポーションを、私は給仕から受け取り扉へ投げつけた。
中のオイルが飛び散り炎が燃え上がる。
浄火のポーションとは火炎瓶だ。
「た、助けてくれ……アンナ……ロリータ……」
ロリータとは私ドロレスの愛称だ。ゾンビ王子に愛称で呼ばれるとは反吐が出る。
「王子はもう助からない! 首を切れ!」
「はい!」
なぜかパーティーに混じっていた、斧を持った処刑人が、王子の首を切り落とす。
「な、なにするのよあなた! 婚約者でしょう!?」
アンナがヒロイン顔で私のドレスを掴んだ。クソ平民め。汚え手で触るんじゃねえ。
『ロリィ……ロ……』
私の足元に転がってきた王子の首が、何か語りかけて来たが、死者は大人しく死ねよとアンナの元へ蹴り飛ばす。
「ぎゃあ!」
アンナは王子の首で腰を抜かす。
『ア゛ンナ……ア……』
当然死者がしゃべるわけがない。
王子はすでに人間ではなかった。彼はナチスの残党が作り上げたヒトラーのクローンであり、宇宙生物であった。
王子の首と体の断面から触手が伸びて、絡み合い、結合する。
「王子はモンスターだ! 宮廷魔道士よ! モンスターを討伐せよ!」
なぜかパーティー会場にいた宮廷魔道士を集め、王子の討伐を試みる。
だが王子は宮廷魔道士の魔法くらいでは簡単に死なないことを私は知っていた。
「ロケットランチャーだ!」
私は給仕からソ連の開発した対戦車携行兵器RPG-7を受け取った。一発の値段が安いので、困窮している我が国でも扱いやすい。
ナチ野郎にソ連の兵器は弱点特効であった。私の発射した榴弾が元王子に命中し、王子はド派手な爆発を起こして霧散した。
ついでに後方確認を怠ったため、バックファイアで何人か消し飛んだ。
「いえーいやったぞー! ヒャホーイ!」
宮廷魔道士たちは手を叩きあって喜んだ。ワインを手にしてご機嫌な乾杯だ。
「まだ終わっていないわよ!」
水銀のような王子の残骸が、ねとりねとりと集まり、くっつき、体積を増やしていく。
クソ映画はすぐにこのパロディを入れたがる。元はといえば名作漫画のアレだ。
「アンナ! あなたの聖女魔法で王子を消し去るのよ!」
「いやよ! ドロレスなんかに命令されたくないわ! それに愛する王子を消すなんて私にはできないわ!」
頭の湯だったクソヒロインが! やはりこの女は学園時代に本格的に潰しておくべきだった。いまさら遅いが悔やまれる。
この国がゾンビで滅んだのも、王子が宇宙生物となったのも、全ては星の聖女と呼ばれるこのクソビッチのせいである。
月の裏で復興されたナチスドイツに取り入り、宇宙人が星の聖女を手にしようと企んだのだ。
星の聖女は寄生液状生物スライムを消し去る力を持っている。
この舞台は、宇宙人による実験場だ。王子スライムを星の聖女が消し去った事を確認したら、星の王女は宇宙人に攫われてエンディングとなる。
しかしそうなった後のドロレスは描かれていない。
ゾンビの群れにやられるのだろうか。
だったら、私が生き残るには、私が王子スライムを消し去るしかない!
「鮫魔法! シャークトルネード!」
私の手がお粗末なCGで輝き、王子がお粗末なCGの竜巻で舞い上がる。
その竜巻の中には無数の鮫が泳ぎ、王子の肉片に食らいつく。
「ドロレス! 私の王子に何やってんのよ! 今すぐ魔法を解除しなさい! ああかわいそうな私の王子! いま助けるからね!」
頭の湯だったクソビッチが、私の放ったシャークトルネードの中へ手を伸ばす。
鮫がクソビッチの手に噛みつき、「そうはならんやろ」と言うほど手首から血が吹き出した。
「うぎゃー!」
クソビッチのドレスがトルネードによって引き裂かれていく。おなじみの全裸サービスシーンだ。
この女は時々全裸になる。なのでビッチメインヒロインの星の聖女はポルノ女優が使われている。なので演技もセリフも棒読みである。もちろん王子との濡れ場も学園編で行われているぞ。
『オマ……エガ……ホシ……ノ……セイジョ……』
私のシャークトルネードによって天井が吹き飛んだパーティー会場。満天の星空にアダムスキー型円盤が浮かんでいる。
プシュゥゥゥウウとドライアイスの煙を吹き出し、円盤下部のハッチが開いた。
そして銀色のグレイ型宇宙人がパーティー会場に降り立った。
『ホシのセイジョ。ワレラトトモニ、クルガヨイ』
「いやー! やめてー!」
手首から吹き出した聖女の血によって、王子スライムは私のシャークトルネードの中で消滅させられていたようだ。クソビッチが星の聖女として認められてしまった。
運命は変えられなかった。
このままではあのビッチが生き残り、私はゾンビの餌となるだろう。
私はRPG-7を構えた。
「ファイア!」
しかし榴弾は銀色宇宙人の体をすり抜ける。クソ! ホログラムか!
『オロカナ……チキュウジンメ……』
銀色宇宙人は眩しい光を放ち、視界が真っ白となる。
畜生! ホワイトアウトで全てを誤魔化す気だ!
『チキュウハ、ワレワレノ、ジッケンジョウニ、スギナイ』
視界が真っ白なまま、宇宙人はそれっぽいことを語りだした。
ラストを締める良い脚本を思い浮かばなかった結果、ぶん投げ編集でそれっぽく終わらせるエンドをするつもりだ!
そうはさせない。
私は悪役令嬢。全てをひっくり返す力を持っている。
「おろかな宇宙人め。お前らこそ、この私を引き立てる舞台装置に過ぎん」
『ナンダ……オマエハ!』
「忘れたのか。私こそが全宇宙の支配者。全ての生命の根源。再生者。私は母星アルテリオスに帰還する!」
『マサカ……アナタサマハ……ジョ……ジョオウヘイカ……!』
私はエピソード2へ続く詐欺エンドで終わらせて、生き残ったのだ。
逆光でのシルエット。
暗転。
私の笑い声。
~FIN~