おっぱいの大きさなんて関係ねぇ!
翌日。
今日もいつも通りの朝を迎えた。
スマホのアラーム機能が作動し、けたたましい音を出す。
俺は眠気眼になりながらも、枕元に置いていたスマホに手を伸ばし、アラームを止める。
そして、けだるさが残る中、ベッドからむっそりと起き上がると、すぐに一階の洗面所へと向かう。
「おはよぉ……ふわぁ」
あくびをしながら母さんにそう言って、顔を洗おうとしたとき。
「あんた、いつまで待たせる気なの?」
「ん?」
「もう舞ちゃん家の前で待ってるけど?」
「…………は?」
俺は顔を洗った後、すぐに自室へと舞い戻る。
——俺の見間違いか?
もしかして、寝坊でもしたのだろうかと慌てて制服に着替え、カバンを手にリビングに向かう。
「お、そんなに急いでどうした?」
いつもなら俺が朝ご飯を食べる頃には出勤してしまう父さんが珍しく、モーニングコーヒーをのんびりと飲みながら朝刊の新聞を読んでいた。
「どうしたって、遅刻してんだよ」
俺はそう言って、朝ご飯を流し込むように食べる。
途中、みそ汁でやけどしそうになったが……なんとかセーフ。
だが、父さんはまるで何を寝ぼけたことを言ってるんだというような顔をしている。
「お前、とうとう頭ヤッたか?」
「は?」
「時計見てみろよ」
そう言われ、リビングにある時計を見る。
「……って、まだ七時回ってねーじゃん!」
というよりも、いつもより早起きしている。
じゃあ、母さんが言ったことは嘘か? と、思ったが、嘘をつく理由なんてものがそもそもない。
舞がこんな時間から家の前に待っているのはこれが初めて。いつもなら早くて学校に行く前の早くて五分前とかである。
学校に登校するまではまだ五十分。
とりあえず、朝ご飯を食べ終えた俺は、一度玄関に向かい、家の前に出ることにした。
☆
家の前に出ると、門の左側に人影が見えた。
たぶんいつもそこで待っているから舞だとは思うのだが、今日はいつもとは違う。
何が違うかというと、舞が待っている時間帯もそうなのだが、右側にも人影が見えた。
いつもなら舞しかいないはずなのに、門前には二人いる模様。
そして、何よりヤバいオーラが放たれていた。
目には決して見えないような無言の威圧感。
——俺の家の前で一体何が……。
そう思い、恐る恐る近づいてみると……
「遅い! いつまで——」
「りょーくんおはよっ! じゃあ、早く学校に行こ?」
「なっ?! あたしが話している時に……って、ちょ、ちょっと待ってよ!」
いつも通り舞から遅いだの文句を言われるのだろうなぁと思いきや、それを遮り、まるで舞が存在していないかのような態度を見せるあーちゃん。
俺はそんなあーちゃんに無理矢理腕に抱きつかれ、強制連行される。
完全にふいをつかれた舞は慌てて、俺たちの後を追う。
「え、えーと……あーちゃん? ちょっと放してく——」
「りょーくん、今日の昼休み一緒にご飯食べない?」
「ちょっと早坂! 何あたしのこと無視してんのよ!」
「あれー? 舞さんもいたんですかー?」
あーちゃんの声が棒読みに聞こえたのは気のせいだろうか?
その反応に対し、舞はますます憤慨する。
「あんたさっきから気づいてたでしょ! もしかしてわざとやってるの?」
「そんなわけないじゃないですかー」
やっぱり気のせいかと思ったけど、気のせいじゃなかった。
この二人昨日初めて会ったばかりだよな? 俺が知る限りではそうだと思うが、これほどまでに仲が悪くなるとは思ってもいなかった。
とりあえず、このままだとまた修羅場になりかねない。
俺は、二人を落ち着かせようとする。
「あ、あのさ、舞も一旦落ち着いて……」
「なに? りょーすけはおっぱいの大きい女の子が好きなわけ?」
「は!? ちょっと待て! いきなり何を言ってんだよ」
「だ、だって、そうでしょ!? さっきから早坂のおっぱいが当たるたびにニヤニヤしてるもん! 私なんか……ごにょごにょ」
最後なんて言っているのかは聞き取れなかったが、俺そんなにニヤニヤしてたの?
ふと、あーちゃんの方を見ると、勝ち誇ったような笑みを浮かべているように見えるが、目の錯覚だろう。
その話を聞いた後、あーちゃんはさらに俺の腕をホールドして胸に押し付ける。まるでわざとやっているかのように。
「と、とにかく……なんというか、大きいには越したことはない、けど……大きさなんか関係ねーよ!」
何言ってんだよ俺!
舞が落ち込んでいるように見えたから、励まそうと思って出た言葉がこれだ。
自分でも思う……最低でクズみたいな発言だと。
だが、舞は俺の発言を聞いた後、意外な反応を見せる。
「ほ、ほんと……? も、もしもだけど……あんたが好きになった女の子がわ、私みたいな小さいおっぱいでも?」
「え、あ、そ、そうだな。大きさなんて関係ない。気持ちが大事だ」
最後我ながらにいいことを言ったなと心の中で自画自賛をする。
俺の返答を聞いた舞はどこか嬉しそうな表情をした後、すぐに我に帰ったかのようにハッとなり、表情をいつものように戻す。
「りょーすけ、本当に最低」
「……はい?」
「早坂、こんなのと一緒にいない方が身のためかもしれないよ? こいつけだものだから」
「そうなの? でも、私はりょーくんのためなら——」
そして、この後もあーちゃんと舞のいがみ合いが続き、登校中は修羅場と化した。
——か、カバン……。
ただ、確認しに家を出ただけだというのに、無理矢理連行された俺はカバンを持ってきていない。
ということは、この後は想像できるよね?
学校に到着した後、俺は再び家に戻ることになった。