デート【with舞】③
午後五時。
ショッピングモールで遊びつくした俺と舞は帰宅路を歩いていた。
舞は午後もショッピングを楽しみまくり、俺の両手には買い物袋で塞がれている。
「今日はその……ありがと」
隣を歩いている舞がそうボソッといきなり言った。
俺は素直に礼を言う舞が信じられず、内心驚いてしまう。
そんな俺を舞は知ってか知らずか、その後は顔を隠すように下を向いたまま。
「あ、ああ……どういたしまして」
一応返事をした方がいいと思った俺はそう言うと、なんか変な空気になってしまった。
これほどまでに気まずい空気。
舞と一緒に買い物をするのはこれが初めてというわけではないのにどちらとも黙ったまま。
––––ど、どうする……何か適当な話題でも振るか?
この気まずさを一刻も早く打破したい。そう思った俺は、テニス部のことについて訊くことにした。
「な、なぁ、そういえばテニスの方はどうなんだ?」
すると、舞は「あ」と忘れていたことを思い出したかのような間抜けな声を出す。
そして、俺の方を見て、何かを決意したような表情で見つめる。
「あたしさ、テニス辞めることにしたんだ」
「え、なんでだよ」
怪我とかでもしたのか?
と、俺はそう思ったが、どうやらそうではないらしい。
「その、なんというか……や、やらなくちゃいけないことがあるのよ」
「それって、テニスよりもか? お前、テニス結構本気でやってただろ?」
今となっては、テニス部のエースとして知られているくらいだ。
それなのにテニスを辞めるとは……それくらいやらなくちゃいけないことが大事なのか?
舞は一度俺から視線を逸らす。
「う、うん……たしかにテニスも本気でやってたし、大事だとは思ってはいたけど、あたしの中では、そのやらなくちゃいけないことの方が数倍……ううん、数百倍大事なの。だから、あたしはテニスを辞めることにした」
舞の表情はどこか悲しそうにも見えた。
こんな物憂げな舞を見たのは初めてかもしれない。
「そうか、分かった。で、そのやりたいことってなんだ?」
「そ、それは……な、内緒!」
「なんでだよ。言ってくれたっていいじゃねーか。俺たち幼なじみなんだし」
「あ、あんただから……言えないのよ」
「え? 最後なんて言った?」
「な、なんでもないっ!」
舞は頰を赤くすると、そう言って、先に行ってしまった。