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舞の気持ち③

 あたしは部屋に戻ると、ベッドの上に仰向け状態で寝転がっていた。

 お母さんの話を聞いて、胸の奥がじわ~となるような感覚がある。

 ––––あたしはりょーすけのこと……。

 ずっと幼なじみとしか思っていなかった。昔も今も。

 でも、やっぱり心のどこかではりょーすけのことを……って、思っていたのかもしれない。

 あたしは自分でも気がつかないうちにりょーすけのことを意識していたんだ。


「なんであんなやつを……」


 あたしは心の中をぐちゃぐちゃにされるような感覚に襲われ、近くにあったまくらを胸にぎゅっと抱く。

 

「ああああああ! もぉ~!」


 イライラする!

 なんであたしがこんな気持ちにならなければいけないのよ!

 あたしはむしゃくしゃしてベッドの上をゴロゴロと転がる。

 そして、幾分かすぎたあたりでようやく落ち着いたところでまた冷静になる。


「そう、だよね。やっぱりあたしは好きだったんだ……」


 そう思うと、心が軽くなったような気がする。

 お母さんが言っていたように毎朝、りょーすけの家の前で出待ちをしているとか、普通に考えても気があるような行動としか思えない。

 幸い、なのかな? りょーすけが鈍感だったからそんな風に思われてはいないと思うけど……


「どうしよう……」


 早坂綾乃という最強のライバルが現れた今、このままでは絶対に負けてしまう。

 お母さんも言っていた通り、素直になったほうがりょーすけも振り向いてくれるのかな?


「で、でも……」


 りょーすけには、これ以上弱い自分を見せたくない。そんな気持ちもある。

 なんで弱い自分を見せたくないかというと、あたしが小学校に入学した頃から遡る。

 


 あたしが小学校に入学したばかりの頃。

 性格は今と違い、人見知りで内気だった。

 そのためか、同じクラスの男の子たちには毎日のようにからかわれ、人見知りのせいもあってか、友達と呼べるような子もほとんどいない状態だった。

 毎日毎回休み時間のたびに男の子にからかわれたり、一人ということもあって、机で勉強をしているフリとかもした。

 そんな日が続き、学校自体が嫌になりかけていたときだった。りょーすけと出会ったのは。

 その日は朝から雨が降っていた。


「舞、傘は持ったの?」


「うん、じゃあママ行ってきます」


 あたしはそう言って、普段通りに家を出る。

 最近、隣に引っ越してきた家に同い年の男の子がいると、その当時のお母さんから聞いてはいたけど、その頃のあたしは気にもとめていなかった。どうせ、男の子はみんな同じ。あたしをいじめる敵だとでも思っていたのかも。

 学校に向かう道。ところどころに水たまりがある。

 それを避けながら歩いて、小学校に到着する。


「また……」


 靴箱に向かって、靴からシューズに履き替えようとすると、靴箱には何かのゴミらしきものが入れられているのに気がつく。

 もう毎日こんな感じだから、最初こそ悲しい気持ちになっていたけど、慣れなのかな? なんとも思わなくなっていた。

 そして、クラスの教室に向かって、何もなく一日が過ぎ去ってゆく。

 この時のあたしの毎日は同じようなことを繰り返すことがほとんどだった。

 帰りの会が終わり、いつもの放課後。

 教科書とか入ったランドセルを背負って、一人で教室を出ていく。

 今日転入生が新しく同じクラスに入ったけど、あの子が隣の家の男の子なんだと今更ながらにはっと気づく。

 でも、あたしには関係ない。だって、関わることなんてないと思うし。

 そんなことを思いながら靴箱に向かい、靴に履き替え、傘をさして家までの道をとぼとぼと歩いていると、近所の公園付近に差し掛かったあたりであたしをからかう男の子たちと遭遇してしまった。


「あれぇ? 舞じゃん」


 そのグループのうちの一人があたしの存在に気がつく。

 ––––ど、どうしよぅ……。

 正直、怖かった。

 だから、考えるよりも先に足が動いて、公園から逃げ出そうとした。

 が、やっぱり男の子。足の速さには勝てない。


「ちょっと待てよッ!」


「いたっ……」


 思いっきり肩を掴まれたあたしは反動で地面に尻餅をつく。

 雨がだんだんと強くなる中であたしをからかう男の子三人が近づいてくる。

 あたしは恐怖で身がすくみ、立ち上がることもできず、ただ震えていることしかできないでいた。

 ––––たすけて……。

 そう心の中で懇願した時だった。


「なにしてんだよお前ら!」


 男の子三人の後ろから声が聞こえたのは。

 あたしは何が起こっているのか、理解できずにいた。


「あぁ? 誰だよお前」


 男の子三人の中のリーダーらしきものがそう言う。


「誰だっていいだろ。それより、何女の子をいじめてんだよ」


「あ? お前には関係ないだろ。さっさと消えろよ」


「関係なくない。いじめをしたらいけないって先生からも言われてるだろ」


 そう言った後、その男の子があたしのそばまで来る。


「大丈夫か? ほら」


 あたしに優しい微笑みを向けた状態で手を差し出す男の子。

 あたしはそれに対して、泣きそうになりながらもその手を掴んで、なんとか立ち上がる。


「じゃあ、帰ろっか」


「うん……」


 これがあたしとりょーすけの初めての出会いだった。

 あの時助けてもらえなかったらどうなっていたんだろう……考えても分からないけど、りょーすけがあたしを変えてくれたのは間違いない。

 あたしはベッドから起き上がる。

 今まで気が付いていなかったけど、あたしはあの日からりょーすけのことが好きだったんだ。

 そう確信したあたしは……


「お母さん」


 再びリビングに向かい、テレビを見ながらソファーでくつろいでいたお母さんに話しかける。

 すると、首だけをあたしの方向に振り向かせ、


「どうしたの舞?」


「あたし、テニス辞める」


 あたしは怒られる覚悟でそう言った。

 もともとテニスをしたいと言ったのもあたし自身だし、これまで結構なお金を使ってきたと思う。

 それを怪我もしていないのにあっさりと辞めると言い出すのだから、絶対そうに違いない。

 だけど、いつまでたっても罵声は出てこない。その代わりに優しい声が出てきた。


「そう。舞も覚悟決めたのかな?」


 そう言って、微笑むお母さん。

 申し訳ないなっていう気持ちから、あたしはまともに見ることができず、こくんと頷くことしかできない。

 そんなあたしの手をぎゅっと包み込んで、


「お母さんは応援してるよ? だから、あんたも頑張りなさい」


 子どもの恋路を応援してくれるなんていう親はそうそういないと思うけど、あたしのお母さんはそう言ってくれた。

 早坂は強い。

 スタイルもいいし、頭もよくて、運動神経もいい完璧すぎる女子だ。

 あたしもりょーすけを幼なじみとしてではなくて、一人の女の子として見られるように頑張らないといけない。

 そのためにもお母さんが言っていた通りに素直に…………。

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