表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

或少女の別れ際

作者: 由合トキヤ

気をつけて。

そんな決まり文句で、彼を送る。 もっと違う言葉があるだろうに。

でも、それは言えない。自分のなかでも、ちゃんとした言葉になっていないから。

彼が私にもたらしてくれるのは、非日常。楽しくて、時間が悪戯に早く進んでいってしまう、そんな非日常。

無論、嫌なことなどありはしない。

どんなに冗談を重ねようとも、いつだって、私のことを考えて、私のしたいようにさせてくれる。それが、どれほどのお金と時間、自身の体力を削ろうとも。

だから、引き留めてしまいそうになる。帰らないで、行かないで、と。

そんな、自分に都合のいい時間が、終わってしまうから。彼と共に過ごせる時間が、終わってしまうから。

別れの時、私は笑って手を振った。

気をつけて。

今日は、ありがとう。

定型文句を口にして。残念ながら、それしか言えないのだ。どうしても、声が震えてしまいそうで。別れが辛い、帰らないでと幼子のように、すがってしまいそうで。

だから、小雨がありがたかった。

頬に流れる水も、雨と言い訳が出来るだろうから。

車が見えなくなるまで見送っていたいけれど、そうしたくない自分もいて。混乱する中で、そっと、離れていく車に背を向ける。

これが今生の別れになってしまったらどうしよう。

毎度、そんな不安がよぎる。

そして、そうはなっていないのに、もっと話したかった、もっと一緒にいたかった、などと思い、苦しくなるのだ。

胸の辺りがこう、冷たいなにかで締め付けられるような、そんな、感覚。

非日常を過ごしすぎてしまったせいか、その感覚を、彼に会う前から感じるようになってしまった。

けれどもやはり、その時の方がより苦しくて、辛くて。

もう一度、会いたいから。

もう一度、一緒に過ごしたいから。

もう一度、笑って話したいから。

だから、言うのだ。本当に言いたいことを、その一言に全て詰め込んで。気付いてほしいと願いながら、気づいてくれるなとも、思いながら。

私は今日も、今回も、彼に言う。


___気をつけて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ