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C級冒険者ハルの毎日  作者: 日々乃暮
4/4

さて、今回一番不憫な方は誰でしょう?正解はCMの後で!

うん。

カオスに磨きがかかってきたね。

 魔物渦巻く危険な世界で渡り合える力を持つとされている冒険者に寄せられる仕事は多岐にわたる。

 外界の滝壺に潜って秘薬の材料採取を求められたり、森で(たきぎ)を調達したり、街に住めない堅気でない無い無いづくしな方々をぶった切ったり、お宝たくさんで危険なダンジョンに生息するボスを焚きつけて炙り殺したり。な、たきに渡るだろ?

 だから、冒険者の方も多種多様な方々がいらっしゃる。俺みたいな採取・収集を得意とする者、未踏破ダンジョンの偵察を主力とする者、バトルジャンキーで盗賊をヒャッハーする者、街の猫の専門家、トイレ掃除のプロフェッショナル、受付嬢の今日の機嫌速報を掲示板に貼り出すパパラッチ、大工よりも大工してる建築の鬼………街で困っている妙齢のお姉さま方の小間使いとして働く者ボブと近くの孤児院の元気な幼女たちの遊び相手となる者ロンコリはいつもいがみ合っているが、その程度のイザコザは日常茶飯事。まぁ飯時の話から喧嘩に発展するのが大体だからリアル茶飯事なのはさておき、ここまで個性を取り揃えて回っている組織は他にないだろう。


 だから、冒険者はよくその人を形容している言葉を二つ名として呼ぶ文化がある。

 俺の雑草ちゃんとか、ボブの禿げた完熟トマトとか、ロンコリの紳士協定ノータッチとか。いや、それもはや悪口じゃん。思い返してみると悲しくなるワードのオンパレードだよ。冒険者の悪口の語彙力はクッソ高い学費がいるお貴族様専用国民の血税の大消費地王立学園の生徒にも劣らないと思う。

 さて。なんでこんな話をいきなり始めたかというと。



本日、わたくしハルに新たな二つ名が二つもできました。



いや、それもう四つ名やん!とかいう細かいことを意外と気にする神経質な(設定にこだわる)タカさんは放っておいて、さっきから「恐妻家」「下僕(ドM)」と我が二つ名を連呼した挙句可憐な受付嬢シエナ様にめっ!(殴打)された数多の冒険者どもよ、早くこの麻紐をほどいてくださいませぬか…!


「ハル、何故、私、無視?」

「し、シーよ、先ほどからなにゆえカタコトなのでごぜーます?」

「質問に質問で返さない。私もこの喋り方するのめんどくなってきた。」

「いや、ふつーに喋れば良くない?!あと、早くこの麻紐をほどいてくださいません?」

「私はハルに視線によりへるぷこーるした」

「…留守番電話になってたんだよ」

「…梁におかけになっていたのはハル」


こういうところに冒険者以上に鍛えられた受付嬢のボキャブラリーとトーク力が垣間見える。


「私は寛大な大人の女性(見た目は幼女)だから、さっきの件は私の言うことを二つ聞いてくれたら許してあげる。」

「わかったよ、シーのお願……二つ⁈アレ⁈」

「どうかしたの、ハル。何か不都合でも?」

「いえ、ありません!サー!、いや、シー!」

「……」

「ちょちょちょ!可哀想なモノを見る目で見つめながら麻紐で縛ったままの俺を放置しないで!ちょ、何処へ行くつもりなの?シー?シーさん!?」



「……俺も数ある愛の形に対してどうこう言うつもりはないが、愛娘よ、ハルにもう少し優しくしてあげてもいいんじゃね?」

「あ、あの!副ギルド長!大いなる誤解です!」

「だかな、ハルよ、お前のその姿はどう見てもとある紳士的な倶楽部のとある特殊な方々にしか見え…」

「副ギルド長ォォ!違うんです!」

「ほら、周りのみんな(冒険者)も恐妻家だの下僕だの、てっきり俺はそういう付き合いなのかと」

「理解のある大変素晴らしいお父様でいらっしゃいますが、その理解力をもう少し別の方向に使っていただきたく!」

「それはさておき、婿殿よ。」

「さておかないで!ていうか婿⁈」

「ハルよ、君に特別な依頼だ。」

「」

「…というわけで、新人くんに…おや、ついに脳がパンクしてしまったようだな…」









 …はっ!

 なんか凄い誤解を受けていた気がするが、気がつくと何故かここはギルドの地下にある訓練場。

 俺の目の前にはニタニタニマニマと余裕ぶっこきすぎて顔が溶解しているスライムみたいになっているダサい服くん。周りには心配一毛好奇十五割の目を向けてくるトトカルチョしている冒険者たち(裏切者たち)。ていうかトトカルチョって邪神(カタルンチョス)に似てね?だからあんなに悪意しかないイベントの名前なんだろな。


「それでは只今よりC級冒険者ハルと新人ショウ・タマナワの一対一特別戦闘実習を開始する!」

「副ギルド長!気がついたらいきなり模擬戦することになっているのはどういうことですか!」

「いや、さっききちんと説明しただろう?君に特別な依頼だって。」

「全然記憶がないんですけど!?てかなんでコイツと?」

「まぁ頑張れ。仕事で全然愛娘と遊べない俺を差し置いて明日デートする予定のハルくんが憎いわけではないぞ。」

「まさかの私怨絡み⁈ていうかシーのお願いって…」

「パ、パパ‼︎余計なこと言うな!」


「うわっ、なんかタライが吹っ飛んでったぞ!」

「おい、だれか新人くんに賭けてやれよ、全然盛り上がらんぞ!」

「ワレワレシエナサマ親衛隊一同、怨敵ハルを打ち負かすことを願ってダサい服の新人に賭けさせてもらう。」

「我を人工呼吸と貶した罪、とくと味わうがよい」

「おい、なんかタカさんが黒いオーラを放っているぞ!」

「ん?別にいつものことじゃね?」

「おーい!誰か冷えたジュースはいらんかね?温泉卵もあるよー!」

「…オイ、いったいこのボクをどれだけ待たせたら気が済むんだい?ボクは何ももたない君たちとは違って早くこの騒々しい地下から出て地上の綺麗な花と戯れる用事がある…」


「ええい、煩いぞお前ら!もうめんどいから始めるぞ!よーい!」

「え、え?え!?マジすか副ギルド長!?ていうかそのタンコブ大丈夫ですか?」

「フッ。やっと始めてくれるのかね。さあ、そこのヒョロイ雑魚冒険者くん。せいぜいボクに一撃でも当れたらいいね。」


「始めッッッ」



 気がついたら場のボルテージはマックスになっていた。全然状況についていけない俺は言われるがままにダサい服のイケメンくんと向かい合った。良くわからんからまずは相手を落ち付かせるために軽めのジャブから…


「まぁ、このボクの隠された力がついに明らかになフゲェェェェッッッ  ガツン  ペチョン」


「あ、」


ハルが思わず発したその声が驚くくらい練習場に響き渡った。

誰もが呆気にとられる中、最初に復活したシエナが呆然としているハルを応接室に連行し、副ギルド長は自分がさっき感じた違和感が正しかったことを悟り、観客として詰めかけていた冒険者たちは1人、また1人と階段へと歩きはじめた。




おそらく状況がハル以上にわかっていないであろう皆様に私、受付嬢の1人アリアが解説して差し上げます。ありがたく拝聴なさい。

シエナの彼氏が放ったヒョロヒョロのパンチを馬鹿正直に真正面から突っ込んでいったウザい新人が顔面から受けてふげぇぇぇっと吹っ飛び、そのまま先程使えない副ギルド長に当たっていた巨大金タライにがつんと激突、さらにたまたま誰かが落としたであろう温泉卵の上に鼻からぺちょんと倒れ込んだのがさっきのキモいカエルのような声の真相。

副ギルド長が受付で感じた違和感というのは、同年代の子と比べてあまりにも弱すぎる(、、、、)というもの。だから、普段使っている獲物(、、)をもっていなかった雑草ちゃんのハルでも十分すぎるくらいボコせると副ギルド長は思ったわけよ。まぁ何にせよ、巻き込まれたハルはご愁傷様ね。はやくシエナを幸せにしてやりなさいよ。





こうして、本日もまたバカな出来事があったなぁと夜の酒の肴を得た冒険者たちは酒場へと足を向け、新人くんは冒険者登録を拒否されたことにゴネにゴネて自警団にお世話になることとなった。

ちなみに翌々日、新しい髪飾りを付け出勤してきたシエナは大層機嫌が良かったそうだ。

というわけで。

今回一番不憫な方は名前をつけてもらえない副ギルド長でした。

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