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作品ごとに世界観が違う異世界物語

オルトラル女伯爵エミリー物語

「きさま、俺の愛しいメリシアに嫌がらせをするだけでは飽き足らず、このような暴挙に出るとは、なんと浅ましい女だ」

今私の前に居る男はビレアキム伯爵当主で婚約者のファルフリートであり、その後ろに居るのは彼曰く運命の相手であるらしいメリシア嬢だ。

「そうです、わたしは謝ってくれるだけで良かったのにこんなことまでするなんて酷い」

周囲に居る人たちはなんともいえない表情で私たちのやり取りを見ている。

「ああ、この人たちはここまで馬鹿だったのか・・・」

私は雲一つ無い青空を見上げながら呟いた。





事の起こりは一通の手紙から始まった。

”ビレアキム伯爵ファルフリートはオルトラル女伯爵エミリーに対し婚約の破棄とメリシア嬢への謝罪を要求する”

うん、意味不明だね・・・

ファルフリートとは三年ほど前に親同士の取り決めで婚約が決まった。

その一年後に私の父が亡くなり私が爵位を継承し、その後に彼も爵位を継承してからもその取り決めに変更は無かった。

私と彼は婚約しているので、それを破棄したいと言う申し出については意味が分かるのだが、このメリシア嬢への謝罪とはなんだろう・・そもそもメリシア嬢とは誰?

謝罪を要求されているのだから、会ったことがあるはずなのだがどうにも思い出せない。

まあ良いか・・・元々この婚約は領の境界にである森林地帯から有益な希少植物が見つかり、その利権がらみで決められた契約結婚であった。

しかし、この希少植物は我が領内であっさり栽培することに成功してしまい、価格は暴落して今ではチョット高価な薬草程度の価値しか無い。

そのため現在ではこの契約の重要性は皆無であり、相手からの破棄でこちらに契約上の不利益の無いこの婚約解消については特に問題は無い。

取り敢えずはよく分からない謝罪の部分は無視して、婚約破棄の為の話し合いの場を持つことにした。





「酷いですわ、あんなことをしたのに謝りもしないで、まるでそれが無かったかのように話を進めようとするなんて」

あんなことってどんなこと?

私とファルフリートとの話し合いは、未知なる女性からの先制攻撃で始まった。

「そうだ!こちらはまず謝罪が無い限り一切の話し合いに応じるつもりは無い」

ファルフリートはそう言ってはいるのだが、ここは話し合いのために設けた場であり、ここに来たのだから話し合いには応じているような気がするのだが、これは私の勘違いなのだろうか?

「それではまず規定の取り決めに従って婚約破棄を進めようと思います。取り敢えず婚約を破棄する理由をお聞かせください」

私個人としては面倒なのでさっさと婚約破棄の書類にサインをしてしまいたいがこの婚約は両家の契約である部分が多く色々と面倒くさいのだ。

「話を聞いていなかったのか、まずは謝罪しろ!」

「そうよ、謝れば許してあげるとこちらが譲歩しているのにそれを無視しないでください」

話が通じない・・・

「ええと、婚約破棄の理由はわたくしが謝罪しなければならないとされている理由と同じなのでしょうか。とにかくそれが何であるのかお話しください」

ギャンギャン、キャンキャン、ピーチクパーチク

私もう帰りたいよ・・・

その日は何一つ有益な話をすることが出来ずに終了した。





それからは王国調停官を交えてファルフリートたちとの戦闘を繰り返した。

出来ることならすべてを無視して婚約破棄をしてしまいたい気分だが、こちらからそれを切り出せば契約上の不利益をこちらが被ることになるので、それだけは避けなければならない。

”でも、もういいよね・・・”と投げ出したくなる今日この頃である。

「俺がメリシアを気にかけていることに嫉妬して、きさまが色々な嫌がらせを行っていたことは分かっているんだ。俺はきさまのような心の醜い女では無く、聖女の心根を持つメリシアと結婚する。潔く罪を認めて婚約破棄に応じろ」

そう言って彼は隣に座っているメリシア嬢の手をなでた。

その行為にいったいどんな意味があるのかは分からないが、彼女の指に輝く婚約指輪が目に入った。

ところで、婚約者のいる男性が他の女性を口説く、人それを浮気と呼ぶ。

隣にいる王国調停官は苦笑していたので私と同意見であるようだ。

「そうです、貴女が参加していたサロンで、わたしが休憩室に強引に連れ込まれそうになったり帰り道に暴漢に襲われそうになった事は事実です。サロンではファルフリート様が助けてくださいましたし、暴漢は護衛が撃退してくれたのでわたしは無事でしたけど、だからといって貴女を許すことは出来ません」

なにその無理矢理な理論!?

しかし、一緒のサロンに出てたんだ。

でもね私は貴女もだけどファルフリートとも会場で会ったことは無いわよ。

証拠として提示された内容は私と彼らが一緒のサロンに参加していたことを証明している。

そこで彼らを見ていないとする証拠はこちらから提示しようが無い。

まあ元々が証拠としてはあれな内容だけど・・・

ところで貴女が襲われたのって、その超弩級のボンキュッボンな体型と馬鹿・・騙し・・独創的なお振る舞いのせいではないかしら?

その後も話し合い・・・いや、一方的な侮辱と冤罪の主張が続いた。

最後には調停官がこの不毛な話し合いをぶった切ってファルフリート側の理由による婚約破棄と契約に基づいた内容の履行で決着を付けようとしたが、二人の非理論的反論によってまたもや決裂した。


私はやや遠い目をしながら馬車に乗り込む調停官に強めのワインを差しだした。

「あれたちのお相手をしてお疲れでしょう。わたくしもこれから同じ物で一杯やる予定です。ご一緒は出来ませんが気持ちだけでも付き合ってください」

私は彼に渡したワインとまた別のワインの瓶を乾杯するかのように打ち合わせた。

「狂乱者たちに浄化の光が降り注ぎますように」

私は冗談めかして笑いかけた。

彼は少し難しい表情をしたがすぐに表情を崩し、今度は彼の方から瓶を打ち合わせてきた。

「敬虔なる神の僕に癒やしの光が降り注ぎますように」


その日の帰り道はとても穏やかな気分で過ごすことが出来た。

実際は馬車の中で正体をなくすほど酔っ払って寝てしまっただけではあるのだが、それでも夢の中で何か良いことがあったような気がするのだ。

だが、朝目覚めた後に執事と侍女に散々説教をされた。

はい、以後気をつけます・・・





大分疲れていたので彼らとは当分は会いたくなかったのだが、今度はあちらからこちらにやって来た。

ここには色とりどりの装束をまとった者たちが集まっている。

私は魔石の付いた白銀の装束をまとい眼前を睨んだ。

今日は私の十六歳の誕生日でこれからは正式に成人した大人の仲間入りである。

そしてここが公式には私のお披露目の場と記載されるだろう。

この状況に不安が無いわけではない、私の足は少し震えていた。

おそらく眼前の集団の中にあの二人もいるのだろう。

負けてたまるか、練習のように美しく舞い踊ってみせる。




「全軍前へ!」

肉体言語による話し合いが始まった。




そして冒頭に戻る。

私はギャンギャンうるさい二人の捕虜を見下ろした。

我が領内に侵攻してきたビレアキム伯爵軍との戦闘は意外にあっけなく勝敗が決まった。

こちらが地の利でも兵力でも上回っていたのも理由ではあるが、大きな理由は相手の編成と指揮のまずさが原因であった。

前当主はどうしてこんな奴を次代の当主に選んだのだろうか。

それからしばらくして、彼らからの口撃は止んだ。

どうやら疲れてしまったようだ。

ようやく静かになった二人に、私は冷ややかに声をかける。

「婚約破棄の賠償とあなた方の身代金、それと戦後の賠償は誰に請求したら良いかしら?」



その後、国の裁定によりビレアキム伯爵領は王国に返還されることとなり、私はその半分を賠償金代わりとして受け取った。

ファルフリートとメリシアがどうなったのかは詳しくは知らない。

風の噂では鉱山のある町で真面目に働いているらしい。

手に職もなく、お金も持っていない彼らが付ける仕事は容易に想像出来るが、私には関係の無いことだ。

命があるだけありがたいと思え。

取り敢えず私にはそんなことより重大な問題が発生している。


あの戦場のお披露目の後、私の環境は一変した。

「エミリー嬢、貴女は素晴らしい。白銀をまとって舞う様はまるで伝説の戦姫のように美しく、返り血で染まった姿は妖姫のように心を捉えて離さない。どうか私と結婚してください」

そう言って男は手を前に突き出した。

それって求婚の言葉としてはどうなの?

この男、多分あの戦いにどちらかの傭兵として参加していたのだと思うが・・・

これが普通の求婚であれば、私は頬を赤らめながら答えに迷ったかもしれない。

だがこの場合の対応は単純だった。

私は突き出された刃引きされた剣に自身の剣で軽く触れる。

そして二人の話し合いが始まった。

誰だ、私が肉体言語を好むとか吹聴した奴は!


数ヶ月後、あの時の王国調停官が普通に求婚してくるのはまた別の話である。

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