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EP1アースシェイキング・オカマ・ショー前編④『多分これがシゴト』

 佐山は植山とのやりとりを打ち切った。それはオカマ、ジェリーの死を意味する。

その執行猶予は残り僅か、佐山が乗る武装強化外骨格のハッチが閉まるまでだ。

だが、その猶予のうちに何とか黒木は佐山の乗る機装具の元へとたどり着いた。

「と、とく、特殊、能力省の黒木です」

息も絶え絶えになりながら名乗る。閉まりかけたハッチが再び開く。


 黒木は改めてこの佐山の顔を見た。

耳は潰れ、鼻も少し曲がっていた。如何にも猛者である。あの耳は柔道をやり込んだ人間のものだ。

彼は黒木を上から下まで、鋭い目つきで品定めをしている。

『お前はこの喜劇的な戦場でどう相互作用と錯誤を起こすのか』そう視線が問いかける。

その視線に黒木は気後れする。こっちは事務屋、相手は戦闘のエキスパートだ。


 「特能が何の用だ。見たところ『特能狩り』じゃないようだが」

特能狩りは特能省警備部に所属する特殊部隊のあだ名だった。

特殊能力を用いる犯罪者、テロリストの除去が任務だ。

確かに特能狩りと黒木とは無関係だ、黒木はハローワークの元締めだ、それも『元』。


 だが省の名前は確かに効いた、実際閉じかけていたハッチを開かせた。

しかし次に何を言うべきか黒木は知らない。目線が機装具の足元をさまよう。

赤沢に促され、そして植山に導かれて出てきたものの何をどうしろと言うのだ。

確実なのは何もしなければジェリーは撃たれて死ぬ。どうすればいいんだ。


 黒木は黙ってしまった、脳味噌がフルに活動する『覚醒』に至らせるまでの情報が

まだ手元にない。それに元が温厚な性格だからか、何も言えない。

そこに植山が助け舟を出すように口をはさむ。

「よく聞け、この特能の兄ちゃんがこのバカげた騒ぎを終わらせる責任者だ」

嗚呼、これは助け舟じゃない、泥船だ! 

どう見たって黒木は指揮官には見えない、能力もない。

「デタラメを言うな! 現場の指揮権はこちらにあるはずだ! 」佐山が吼える。

「だったらホンチョウにでもサッチョウにでも確認してみろ! 」植山の応戦。

「ケッ、ふざけやがってまだデカのつもりか。おい、こいつらをつまみ出せ! 」


 今度の悪態には同情も憐憫もない。戦闘の素人が戦場を取り仕切ると言われたからだろう。

相当頭にきたようだ。佐山が機装具の脇の部下に顎を振って指示した。

しかし隊員は動かない、無線に集中しているようだった。

あっけにとられた声で「了解」とつぶやくと佐山にも同じ口調で話しかけた。

「副長、警視庁から入電、こちらで対処する前に『都庁相談室』に対応させろとのことです」

佐山は口を半開にし、愕然としていた。だが黒木の方が度合が酷い、顎が外れそうな程口を開いた。

黒木は視界の端に『してやったり』とほくそ笑む赤沢の姿をとらえた。

彼女の手にはタブレットが握られている。

『あれで、なにかをどこかに連絡して、それが巡り巡って佐山に伝わたのだろう』

黒木は薄ぼんやりとそんなことを考えたが、脳が機能しない。


 一度は混乱をきたした佐山だが、流石に荒事のプロである。

思考を回復させたのか、口を開く。

「了解した、ただし負傷者が出るようであればこちらは動く」冷静な一言だった。

佐山は黒木をしかと見据え威厳を保つ。

佐山の堂々たる姿が混乱した黒木を余計に追い詰める。


 だが、こういう、状況、に、丸め、込まれて、はならない。

黒木は残されたわずかな余裕でとぎれの決心をした。

『最早脳が機能していない、なら少しばかりでも働く状態に戻そう』

一度鼻から冷たい春の風を胸いっぱい吸い込み、口から吐き出す。

吐息は白く、上へ上へと昇っていく。

少しばかり脳の機能の改善が認められた。


 先ず、この状況——指揮権限の委譲は何故可能になったかを理解するように努めた。

『この状況で指揮権限を奪えるほど、都庁相談室の権限が強いのか』

否、違う。それなら植山が佐山から指揮権をはく奪すればいいだけだ。

『省庁間の連絡に時間がかかり、黒木の乱入がそれを間に合わせたのか』

これも違う。特能関連はどの省庁も24時間最優先案件として処理される。

現状路面を砕いただけの被害では省庁間のもめごともないだろう。

そもそもジェリーが危険ならとっくの昔に特能狩りによって『処理』されてる。

『だったら、()()()()()()()()

多分そうなのだろう、だが、何故だ。俺はただの特能省の事務屋だ。


 脳味噌が機能しても、結局のところ、訳が分からない。その一言に尽きた。

「わ、解りました、本件、本件の解決は、『都庁相談室』が、た、担当します」

必死の覚悟で、腹の底から、蚊の鳴くような情けない声で宣言する。


 かくして喜劇的な戦場のメガホンを素人舞台監督が握った。

これがオカマショーの終わりなのか、惨劇への場面転換なのか、だれも知る由もない。


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