門番
門番
テンテンがレムリアからなっぴの元に来た。彼女はその懐かしい虹色のブローチの感触を両手で確かめた、その時だ。
「ガガガーン」
クレパスを降下する『amato2』に強い衝撃があった。その衝撃でミーシャの両手が操縦桿からもぎ取られる様に離れた。すぐに起き上がった彼女はモニターを見た。その衝撃はセミクジラのミコが『amato2』にぶつかったものだ。
「この先に何かがいる、巨大なクジラを跳ねとばす程の何かが」
ミーシャが二人にそう言った。そして続いて叫んだ。
「何かにつかまって、今度はタケルがぶつかる!」
その言葉が終わらぬうちに、さらに強い衝撃が『amato2』に起こった。
「このままでは持たない、耐圧穀に早く移って、なっぴ、セイレ」
ミーシャは『amato2』をリモートコントロールに切り替えた。三人は転がる様に耐圧穀のカプセルに移っていった。切り替えたモニターにはアガルタの主「ダイオウイカ」の巨体が巨大な吸盤でナガスクジラを捕らえ、その足で締め付けているところが映し出された。二頭のクジラはそいつに投げ飛ばされたのだった。黒い煙幕を吐き、二頭のクジラに目くらましをし、その鋭い口がいとも簡単にひれを裂き、さらに締め付ける。しかしこんな超深海では、なっぴにはどうする事もできない。それはミーシャも同じだった。ふと見るとセイレがいない。やがてモニターに緑の髪のセイレが映った。
「セイレ、気をつけて」
「お止めなさい、ダイオウイカ。さもないと……」
「ダイオウイカ」はぎょろりとその人魚をにらみ、こう言った。
「さもないと、何だ。人魚がでてくる幕じゃない。ここはアガルタの最深部だ、とっとと帰れ」
しかし、彼女はひるまなかった。それどころかダイオウイカの前を泳ぎ回り挑発した。
「お前もアガルタの者なら、これを知っているであろう」
彼女は緑の髪飾りを抜き取り、それを「マーラの槍」に変えた。
「ほう、それらしい槍を持っているが、まさかそれで俺と戦うつもりじゃあないだろうな」
「どうしても私たちの邪魔をすると言うなら」
「見くびるな、小娘が」
「ダイオウイカ」は二頭のクジラを放すと真っ黒い墨を吐きながらセイレに向っていった。
頭上で大きく振り回したマーラの槍は回転が上がり、巨大な渦を起こす。その渦はまるで生き物の様に「ダイオウイカ」に向っていく、そして強大な力で「ダイオウイカ」を引き寄せ、渦の中心に引き込んでいった。
「おのれ、身動きが取れぬ、何だあの渦は。槍を持ち渦を自在に操る人魚だと、そんな人魚は既にこのアガルタにはいないはずだ」
セイレは「ダイオウイカ」の足を数本切り落とすと、ミコの大きく裂けたひれに触れた。
「エクタノーテ・エスメラーダ」
そのひれは見る間に回復した。その姿を見た「ダイオウイカ」はその『エスメラーダ』に心を奪われたのである。
「あなたは七海の人魚を束ねた『マーラ』様の生まれ変わりなのか?」
「ダイオウイカ」は遠い昔、マーラと戦い、切り取られた足の痛みを思い出した。『amato2』はその横をすり抜けていった。
「二人を回復させてすぐに追いつくわ、気をつけて、なっぴ、ミーシャ……」




