新しいテントウ
新しいテントウ
アネモネの鉢の下には、二重のピニール袋にくるまれた『虹色テントウ』のブローチがあった。七年前、『人間界』と『レムリア』を隔てていた『次元の谷』をシンクロさせたなっぴの『虹色テントウ』は、羽に埋め込まれていた全ての宝玉を使い、その役目を終えた。『マンジュリカの玉』も同様に数個のかけらに砕けていた。香奈が何故こんなところに慌てて隠し『マナト』に向かったのか、彼女には不思議だった。
「私の『虹色テントウ』も、母さんの『マンジュリカの玉』もとうに役目を終えている。それなのにこれを私に渡すなんて、一体どういう事かしら?」
それを手に取り、なっぴは割れた『マンジュリカの玉』にふっと息を吹きかけた。不思議な事にその玉は見る間にひとつにビッタリとくっついたのだ。それは、紛れも無い『マンジュリカの玉』だった。
「母さんの『マンジュリカの玉』だわ、じゃあ……」
かつてのように、その中をのぞいてみた。中に見えたトレニアのかわりに母の姿が見えた。
「母さん、どこにいるの?」
しかし、封印された水晶玉の中の香奈には何も聞こえるはずが無かった。ただ母が無事である事はなっぴにもわかった。彼女はテントウの中央に『マンジュリカの玉』を収めた。ブローチの中央のくぼみが赤く輝き始めた。
「セイレ、ありがとう。ところでこの伝言はいつ母さんから?」
「ううん、わからない。ただ繰り返し頭の中に響いていた、ずっとまえから」
やがて虹色テントウが活動を始めた。
「やっと、眠りからさめた。おや、里香とは随分違うな。おまえがなっぴか?」
「……し、しゃべった……」
セイレが驚きの声を上げた。
「おまえも同じことを言う、人魚の娘」
「私の虹色テントウ、少し性格変わったみたい」
「マンジュリカの玉で生まれ変わったからな。なっぴ、おまえはまたとんでもない事に巻き込まれているな、まったくどうしたら良いものかな?」
ミコが急に窓に近づきカーテンをそっと開けた。外を見回し、そして小声で皆に話した。
「どうやら、ここは既に囲まれている、奴らはずっと尾行していた様だ」
タイスケもそれを感じていた。眠ったままの香奈の身体に結界を張り、虹色テントウに封印するとマイはなっぴに言った。
「なっぴ、これでいいわ。私の封印の術は私にしか解けない。これだけは完璧よ」
「女王直伝だからね、ありがと」
「手筈通りに。『青いかもめ』で合おう」
二つのグルーブがなっぴの合図で、彼女の家を時間をずらして、別々の方向へとそっとでていった
『追跡者』
彼らがなっぴの家に忍び込んだのはその数分後だった。数人のサングラスの男たちは髪の毛が濡れている。サングラスを外し一人の男が床をじっと見た。
「ふむ、どうやら。あの魚人が先回りしてアコヤガイから真珠を抜き取ったらしい。人間が三人、いや虫人の匂いもする…」
寝室からもう一人が戻ってきた。
「『香奈』の姿がありません。それに『マナ』の反応も消えています。おそらく奴らが持ち去ったのに違いありません」
「レムリアの巫女か、ダーマ様が一目置くのも無理からぬこと。邪魔な巫女どもを片付けようと思ったのにな。『香奈』が素直にアガルタに出向いたのは、あの小娘らがいたからなのか、だが『シュラ』を手に入れた時、『ダーマ』様は最強になる。巫女ごときにどうすることもできまい、何せ生き物ではないのだからな。ところで追っ手の方は大丈夫か?」
「既に『青いかもめ』に向かったなっぴたちを追っております」.
魚人がかしこまってその男に答えた。
報告を受け、アガルタの『ギバ』は玉座から立ち上がった。
「女王『里奈』、『オロシアーナ』そしてやっと『香奈』を手に入れたというのに。肝心な『マナの力』を地上に残していたために、『シュラ』をここから連れ出せぬとは」
ギバはしかし不適に笑い、こうつぶやいた。
「まあ、ここでこいつを起動させる訳にはいかない。『シルラ』ほどわしは強くないからな、ははははっ」
一度起動させた『シュラ』を再度眠らせるために『シルラ』は『マナト』の天井を突き破り、海水で満たし『シュラ』を赤いマユに戻した。しかし破壊することはできなかったのだ。『インセクト・ロイド』は自己再生の細胞でできているのだった。『シルラ』は女王と産まれたばかりの『セイレ』を気遣った。
「アガルタにやっと授かった、エスメラーダを頼むぞ、愛しい『里奈』。タケルが父殿のところにいて本当によかった。アガルタよさらばじゃ」
最後の爆発は『シルラ』の自爆であった。おびただしい落盤の中、赤い眼光のオルカが現れた。しかし、かすんでゆく彼の瞳にはもう光は消えていた。
「こいつが、わしの意のままに動けば恐れるものは無い」
塩水に満たされた洞窟には赤いマユに戻った『シュラ』が再び休眠を始めた。