はじまりの時
はじまりの時
「ダーマはマナ、ヨミに続いて産まれた、ラグナの子孫。もっとも古い実体を持つ神の子。ラグナはそのためタオに忌み嫌われ、捨てられた。その捨てられた星とはムシビトの星「ルノクス」だ」
「あのね、ナナ。それはいいけれどその話し方なんとかしたら? あんた女の子じゃない」
たまらずなっぴがそう言った。
「あーだめだめ、ナナは一番最初のムシビトの精。パピィ(由美子に着床)より古いから男も女もないのよ。ね、ナナ」
「七色テントウは、この星の精。着床するべき巫女は『ヒドランジア』ただ一人」
「ええっ『ヒドランジア』って、マイの事?」
「まだ、あの娘は完全には覚醒していないが、そうだ」
以前なっぴが人柱になった時、ナナが現れたのは、マイの力によるものだった。
ナナを香奈に託したラベンデュラは、知っていた。祖母「アロマリカーナ」が、母『フローレス』に『再誕の禁呪』をいっさい伝えなかったことを。かつて使ったその禁呪がアガルタの混乱を招く原因となった事を悔い、七色の原石に封印してしまったのだ。もちろんそれは、異界のレムリアで七昼七夜に渡り「巫女舞い」を続けるシルティも知っていたのである。
虹の精「ナナ」はアガルタの事もよく知っていた。しかし、それは決して好意的ではなかったとやがてなっぴは気付くのだった。
「試練を終え、エスメラーダの伝承を受け取ったセイレは既に知っているだろう。この星のはじまり、今こそ三人に私からも話そう」
時同じ頃、レムリアではシルティが「巫女舞い」をついに終えようとしていた。透き通るほどの美しい白い肌は七日間のうちに乾き、足の指はその爪が剥がれ、床まで赤く染まっていた。しかし誰一人それを助けるものはいない。扉の外で「コオカ」がじっと座っていた。
「わしにはここでお前の舞いが終わるのを待つ事しかできぬ。お前が『ヨミ族』の巫女としてしようとしている事はわしには解る。『七色の原石』の封印を解き、お前がその寄り代となって『フローレス』を降臨させるつもりだろう。しかしお前の体がそれに耐えられるのか、そこまでの相手が『シュラ』なのか」
ようやく舞いが終わり、空中の巨大な目が初めて瞬きをした。ヨミの声が広間に轟く。
「美しい舞いだ、シルティ。ヨミの扉は開かれた、望むものは何だ。新たな星か、破壊か、それともわしたちと同じ神になる事を望むのか」
彼女は静かにヨミの前に進んだ。そして乾きでひび割れた赤い唇が動いた。
「あの巫女たちを助けてやりたい、『七色の原石』の封印を解きたいのです」
ヨミはもう一度シルティに聞いた。
「たとえ甦っても、今度は本当に巫女の力は失せてしまう。それでもよいのか」
「はい、私がその代わりを勤めます」
「お前が『フローレス』にか、ハハハッ。簡単にいうな、シルティ」
「七色テントウなしでは、その姿は長くは持ちません。しかし人間界にムシビトを送るのは一刻を争うのです。お願いいたします、ヨミ様」
「人間界だと、異界にムシビトを送るつもりなのか。何故そんな事をする」
シルティはいきさつをヨミに話した。
「なるほど、『ラグナ』が絡んでいるのか、それに『シュラ』とは恐るべき相手だ。しかしお前に寄り代としての力があるかどうか解らんぞ、それにその代償は……」
突然扉が開き、コオカが入ってきた。
「ご無礼ですが、ヨミ様」
「お前は確か、コオカ」
「はい、その代償は私が払いましょう」
「それで足らねば、このラクレスが」
ムシビトたちが次々と入ってきた、ヨミが笑った。
「馬鹿どもが、ムシビトたちが皆死んでしまって何を守るつもりだ」
その時声が上がった。
「守るべきは、この国に現れた異界のマンジュリカーナです」
それは「テンテン」の声に他ならなかった。




