最後の試練
最後の試練
「一緒に戦うって、そう言う事だったのね」
「ミコは『バジェスの剣』となり、エスメラーダの手に渡った。最期の試練ももうじき終わる」
ナナがなっぴにそう説明した。
「セイレ、あなたが今手にした『バジェスの剣』はこの星の生命力そのもの。その剣には「イオナ・アマテラス」「ヒメカ・アマオロス」そして「クシナ・ツクヨミ」の聖三神の光が宿る。それはマンジュリカーナのマナと同じ。さあ、ここへおいで。その剣にわたしの命を吹き込みましょう」
その人魚は長いひれを振り、覚醒したばかりのセイレを招いた。セイレは人魚に近づきながらこう尋ねた。
「あなたが、エスメラーダ人魚の言っていた『あのお方』なのね」
「そう、私は『アキナ』、マオとクシナの娘。このアガルタの最初の人魚」
「何故、彼女らの足を奪ったの? ひどくない」
「その程度の覚悟が無い者に、伝承はできない。それはあなたも同じでしょう?」
「違うわ、私は彼女らが私に『伝承』するためにそこまでしたことに敬意をはらっただけの事。何かをするために何かを失うのは当たり前の事かもしれない。けれど、見返りを求めるあなたは本物の『アキナ』様かしらね?」
「なるほど、それも一理ある」
「それに、ミコは今までだって私のために戦ってくれた。『バジェスの剣』になってもらわなくたっていいと思ってる」
「それで?」
アキナが腹を立てているのがなっぴに伝わった。しかし彼女もまたセイレと同じくそう思うのである。なっぴには解る、そしてこうも思った。
「あの『バジェスの剣』とは、『七龍刀』に似ている。使い方次第では星を滅ぼす」
「では最期の試練、『バジェスの剣』に命を吹き込むのを断るというのか」
「もしそうしたら、ミコはただの剣になってしまうのでしょう。だったらいらない、ミコはミコのまんまがいい」
「それではこの先の敵に叶わないかも知れない」
セイレは笑った。
「アキナ様、私にはあなたがしようとしている事が解るの、その命を吹き込んだらアキナ様も消え去るのでしょう? 人魚たちと同じ様に」
「では、タケルはずっとそのままでいいというの? 聞いているでしょう、銀の竜に封印された兄の事を」
「ええっ! この中にお兄様が……」
「どうやら知らなかったようね、その中にはタケルが封印されている。『バジェスの剣』でその封印を解いてやらないの?」
さすがに、彼女は考え込んだ。しかしそのために精霊となってでも、アガルタのために現れた人魚たちと再び別れる事はもう嫌だったのだ。その心を知ってアキナはやさしく諭した。それはセイレの心に響いた。
「セイレ、やはりあなたは私が目指したエスメラーダ。強いだけではありません、優しさも弱さも必要です。そして、それでも断固として動かなければね……」
アキナは『バジェスの剣』をセイレからもぎ取ると逆手にして自分の胸を貫いた。あっという間の事にセイレは言葉を失った。
「セイレ、心配しないでいいのよ。ミコはミコ、ずっと剣のままではありません。あなたはこれでエスメラーダの全ての試練を終えたのです。さあ、銀の竜の封印を解きなさい」
『バジェスの剣』が緑色の光を強めた。セイレが握りしめていたミドリアコヤガイが開いた。その石化した龍は剣の放つ緑色に染まり砕け散る。煙となり散らばった銀の竜の中から現れたのは、セイレの兄『タケル』の姿だった。アキナのいう通り、『バジェスの剣』の輝きが消えるとミコが現れた。
「ね、言った通りでしょう。おいでセイレ」
目に涙を溜めたセイレがアキナに抱かれた。
「あなたのその力は、女王『里奈』の封印さえ解く事ができるはずです。さあ迎えが来ましたよ」
消え去るアキナの耳になっぴが走ってくる音が聞こえた。
こうして再びアガルタにエスメラーダが誕生した。




