サクヤ
サクヤ
「いいのよ、サクヤ。もう少しで終わる」
航跡レーダーは外宇宙の果ての銀河を指した。そしてそれは太陽系の第三惑星を指して止まった。それは宇宙歴で百年前の事だった、無事にゴラゾムと虫人たちはその星に着いた様だった。
「第三惑星、惑星の情報はほとんどない。ただ『シュラ三号』を回収した惑星と条件は似ている。ここなら虫人は生きていける」
『カグマ』は『シュラ』の探査システムを利用し、一号が故障した位置を確かめた。運命のいたずらか、生き残った虫人の乗り込んだ『レムリア』が到着する数年前、その星に『シュラ』が既に届いていたのだ。
「故障したから良かったものの、もし作動していたら『ムシビト』などひとたまりもなかったろう。本当に良かった、いや、こ、これは。まさかこの星には『塩水』があるのか、しかもこれほど多くの、では『シュラ』はまだ生きているのか……」
『カグマ』は、もしも『シュラ』が海中に到着した場合は、腐食を避けるために自ら休眠したのではないかと予測した。そしてもしその後に『シュラ』が目覚めたなら、『レムリア』の虫人などそのコマンドにより根絶やしにされる事に気付いたのだ。
「このままではいけない、シュラを破壊しなければ、しかしどうやって……」
『シュラ』は『インセクトロイド』だ。『ゴラゾム』の細胞を使い創られた、鋼の身体を持つ。無敵の恐るべき相手となる。
「ここへおいで、サクヤ」
『シュラ三号』は回収後、『カグマ』の細胞によって創り変えられていた。その長い髪と細い身体からは想像出来ないが、最強のインセクトロイド『サクヤ』として永遠の美しさを持っていた。『カグマ』は新コマンドを書き込むとやり残していたセットアップを行った。やっと終了した頃、『カグマ』の命はまさに尽きようとしていた。
「これでいい『サクヤ』、『レムリア』の虫人を『シュラ』から守るのです。あなたの使命は『シュラ』を破壊する事です」
「ハイ、『シュラ』ヲ必ズ破壊シマス。」
『カグマ』は残りのエネルギーを使い、自分の脳を『サクヤ』に移植するように手術プログラミングを入力すると『サクヤ』と連れ立って手術室に消えた。ベッド上、意識が遠のく中『カグマ』は初めてその思いを口にした。
「……『ゴラゾム』様、ずっとお慕い申しておりました。もし、科学者の娘に産まれなかったならばきっとこの思いを告げていたでしょうに……」
緑の髪の『サクヤ』は不思議そうにその言葉を聞きながら、まぶたを閉じた。
その数刻後に『サクヤ』は『ルノクス』から『太陽系三番惑星』、なっぴたちの住む『地球』へと向かったのである。それに気付いたのは『オロス』の巫女『オロシアーナ』だけだった。
セイレ・エスメラーダ
「あなたが、あの『ミドリアコヤガイ』にいたのは、ギバたちから身を隠すためだったの?」
なっぴは、『エスメラーダ』に尋ねた。しかし彼女はこう言った。
「わからない、ギバ? 聞いた事もない」
彼女は気が付いた時には既に『ミドリアコヤガイ』の中にいたのだった。どうやら彼女は最近の記憶を失っている様だった。
「ところで、あなたの名前は何と言うの?」
なっぴが思い出したようにそう彼女に尋ねた。
「名など無い。エスメラーダは女王だ、迷う事などない」
それを聞いて、マイが怒りとばした。
「あんた、何言ってんの! ここは海の底じゃないのよ。それになっぴも私も知る人ぞ知る……」
「ストーップ、マイ、いいって。私もあなたもまだ修行中でしょう。ミコなら、彼女の名前を知っているわね、教えてちょうだい」
ミコはひとつ咳払いをすると、三人の前でその名を告げた。
「『セイレ・エスメラーダ』それが王女様のお名前でございます」
「セイレ、素敵な名前じゃない!」
マイの剣幕は、もうどこかに消えていた。
「セイレというのか私の名は、なっぴはいいとして、二人は何と呼べばいい?」
「私はマイ、『レムリア』の王女になるための修行中よ、彼はタイスケ。あなたの入っていた『ミドリアコヤガイ』が運ばれた『アカデミア』の科学者、修行中」
「シュギョウチュウ?」
「勉強してるの、いろいろおぼえているの」
「では私もシュギョウチュウなのだな」
「まずは、言葉遣いを覚えなさい、セイレ」
「そうそう、俺たちのように話さないと怪しまれるぞ、セイレ」
タイスケは笑ってセイレに言った。彼女はうなづくと話し方をたちまち変えた。
「そうね、タイスケの言う通り。そうだ、なっぴ、香奈からの伝言を伝えるわ。ベランダの『アネモネの鉢』の下を見なさいって。これでいい?」
「うっひゃー、セイレってタメ口。でもそれでいいよ。」
あきれ顔のミコを尻目に、セイレの『シュギョウ』もはじまった。