マーラの部屋
マーラの部屋
ミコは、銀竜をセイレに手渡した。なっぴは不安そうなセイレに声をかけた。
「大丈夫、みんなついてるから。セイレの修行の終わりよ、卒業して来なさい」
「修行、卒業?」
「あなたのためにアガルタ中の生き物が応援しているわ、人魚姫がんばれってね」
「うん、元気出て来た。まっててねなっぴ」
セイレが扉の奥に消えた。扉が閉まると岩盤がそれを隠した。
「セイレの試練が終わるまで私たちはどうするの?」
なっぴがミコに尋ねた。
「最後の試練は私もお手伝いしなければなりません。それまではご一緒できません、こちらから見守るだけです」
扉の横にもう一つ小さな扉が開いた。それを開き奥に進むと右手にセイレの入っていった小さな部屋があった。
「こちらからの声は届きませんが、セイレ様の様子は解ります。さあ入りましょう」
セイレが部屋に進むと、扉が閉じた。あかりに照らされたのはベッドに腰をかけたカルナ・エスメラーダ、『マーラ』の姿だった。そして横には槍を持った人形が置いてあった。それは小さな少女のような人形だったが、セイレは一瞬どきりとした。まるで生きているように彼女には見えたのだった。
「ようこそ、セイレ。私はマーラ、会えてうれしいわ、これは『マーラの精』。あなたの心に反応して人魚の槍を自在に使える様になるわ。ただし、その美しい緑の髪と引き換えになるけれど」
「髪くらいどうってこと無いわ、またすぐ生えるし」
「残念だけど、二度と髪は生えてこない。それでもいいのかしら?」
「生えてこない?」
「人魚の髪は、人魚の生命の力。それを私に預けるという事は、アガルタに命を捧げるという事。もしあなたにそれだけの覚悟が無ければ、武器を取り戦う事を止め、傍観者になりなさい。誰もそれを責めはしない」
「マーラ、あなたはそれを捧げたのね。アガルタのために」
彼女は答えなかった。ベッドから上半身を起こしているマーラはかつての自分を思い出していた。彼女も七海の人魚をまとめギバハチと戦った事があったのだ。
(セイレがアガルタの女王として、ふさわしいかどうかはこの試練ではっきりする)
マーラはできれば最後の人魚姫としてセイラには平穏に暮らして欲しかった。カイリュウ族が行方不明の今、アガルタを救えるのは三人のエスメラーダ人魚だろう。香奈により再びアコヤガイに戻された事によって復活したマーラは、両足に力が入らなくなっていた。
「考える事も無い、シュラ、ダーマ、ギバ。アガルタの闇を祓うのに私だけ傍観者でいられるはずが無い。マーラ、もちろんこの命預けます」
マーラは微笑むと人形をひとつ残し、消え去っていった。
「セイレ、全てが終わったらまたもとの髪に戻してあげるわ。あなたは私たちの娘だから……」
セイレの水色の髪が一瞬輝き四方に飛び散り、その代わりに緑色の髪に変わった。
マーラの人形も消えていた。そしてセイレの手にはマーラの槍が握られた。次の部屋へとセイレは入っていった。




