潜行
潜行
「こちら、タイスケ。『amato2』、異常ないか」
「異常なし、これよりディーゼルエンジン部分を切り離す、深度8700メートル」
ミーシャがゲージを見て、とうとう燃料が空になったのを確認した。
そう返信をし、ミーシャは『amato2』をバッテリー潜行に切り替えた。深海の音のない世界にスクリュー音だけが響く。海上の母船には『amato2』の位置を自動追尾するプログロミングがしてある。あとは浮かんできた『amato2』を拾えばいいだけだ。
「私も行きたかったなあ、ねえ?」
「定員4人なんだから、仕方ない。無事を祈ろうマイ」
「そうね、タイスケ。『amato2』にはラダー(かじ)しかないんでしょう。ちゃんと浮かんで来れるのかしら?」
「それは、美沙にはちゃんと教えてある。だが螺旋状に時間をかけて浮かばなければ潜水病になってしまう、一万メートルも潜るんだ、浮かぶ時は何倍も時間がかかってしまう。非常に難しいのだよ」
イノウエ教授がそう言った。
「教授、もう大丈夫ですか?」
タイスケがヨミのまゆから解放されたばかりのイノウエを気遣った。
「ああ、大丈夫だ。美沙が覚醒した以上、ダーマたちは全力で向ってくるだろう。一刻も早くセイレをエスメラーダとして迎えねばならない。そのために彼らはもう一度マナトに向ったのだ」
「今までの事から考えて、シュラはアガルタにいるうちは、その力を発揮できない。最後の戦いの場は地上、もっとも高い可能性はモンゴルのシャングリラ。地上で再起動させるわけにはいかない」
教授はそう分析し、こう付け加えた。
「ミナはこの星に新たなインセクトロイドが向っていると言っていた。もし本当ならその時、何が起こるのか想像もできない」
定員4人の『amato2』は香奈を連れ帰る事を見越して、3名が搭乗する事に決まった。なっぴ、ミーシャそしてセイレが乗り込む事になっている。海上の母船で待つのは4人だ、マイとタイスケそしてイノウエ教授、さすがに海の中は入れない由美子だ。母船はシビレクラゲばかりではない、アガルタの魚たちが何重もの防御網を張っていた。ダーマの嘘がバレた今でも安心はできなかった。尾のちぎれたフクロウナギが再編した守備隊が中心となり護衛していたのである。
「あれっ、ミコがいない」
たった今気が付いた様にマイが言った。皆笑った、ミコはリュウグウノツカイだ、セイレとともにマナトに向った。なっぴたちとともに戦うのだろう。ミコは単なる魚人ではないと皆、薄々思っていた。
後部が切り離された『amato2』は、今度は逆に耐圧殻を全面にし、ゆっくり潜行を続ける。
「クククッ、愚か者め。この海底でわしと戦うつもりか。ゆっくり待っていてやる、クククッ」
不敵にダーマが笑った。
「しかし、カイリュウもなめられたものだ」
赤い目のギバが吐き出す様につぶやく。洞窟の奥では巨大な水槽に沈められた『赤いまゆ』がゆらゆらと動いていた。




