英雄
英雄
「おい、そこに誰かいるのか?」
手下の一人、マツカサウオが刀をぬいて入って来た。彼は置き忘れてあった槍を手にして、とっさに構えようとした。オオグソクムシはその姿を見てそっと言った。
「さあ,それで私をひと突きにしてください。隊長はまだ疑われてはなりません、その古い槍はマーラの『人魚の槍』です、これもまた不思議な縁です、早く」
ためらう『エドゥル』たちに次第にマツカサウオは近づいてくる。
「隊長殿、私が死んだあと名前くらいつけてくださいね」
「返事くらいしろ、ややっお前は!」
マツカサウオが二人の側に来たときだった、オオグソクムシの方から大声をあげた。
「おのれっ、フクロウナギめ、ダーマの手下になりやがって。アガルタ万歳!」
『エドゥル』は素手で向ってくるオオグソクムシの腹をひと突きで刺し殺した。海中にオオグソクムシの体液と刺激臭が広がった。
(必ずセイレ様にお渡しする、許せよ)
エドゥルは銀竜をその広い口の中に隠した。
「ちょうどいいところに来た、残党がこんなところにいたぞ。お前たち、しっかり見張っているのか、まあ良いこの汚いものを早く片付けておけ。わしはダーマ様に報告に行く、いいなマツカサウオ」
「仰せの通り」
マツカサウオはそう答えて、『英雄』の亡きがらを蹴り飛ばした。エドゥルは拳を握ってこらえるとマナトを離れ、海上に向ったのである。
「追えっ!馬鹿者め、まんまと芝居にだまされおって」
マツカサウオの報告に激怒したダーマはすぐさまサメを送り出した。しかし一足違いでフクロウナギはベルーガに連絡をいれた。それまで中立を保っていたイルカたちは喜び、続々と集結した。フクロウナギは『銀の竜』については誰にも言わなかった。ダーマによって既に彼はアガルタの裏切り者として手配されていたからだ。その年老いたベルーガは真っ先に彼を信じた。
「エスメラーダ様は必ずアガルタを救う、ラミナ様のときもそうだった様に」
そのベルーガこそ『ルシナ』とともに『ラミナ』を北極海に送ったあの白イルカであった。
「わしは速くは泳げん、これをセイレ様に渡してくれ。頼むぞ」
ベルーガにそれを渡すとフクロウナギは引き返し、サメの群れに飛び込んで行った。
「馬鹿者めが、セイレ様は生きていらっしゃった。お前たちは騙されているのだぞ……」
そう言い終わらないうちにエドゥルはひれをちぎられ海底に消えて行った。
「あのイルカどもが先だ、追えっ、食いちぎれっ!」
海底に沈みながら彼はひとりごちした。
「時間稼ぎにもならなかったか、だがオオグソクムシよ、確かにベルーガに渡したぞ、アガルタの鍵を。そうだ、お前に名を付けてやろう『エドルド』とな」




