メイフの最期
メイフの最期
「フフフッ、追ってくる、追ってくる。老いぼれ一人によくもあれほどのものが、ダーマにたぶらかされた馬鹿者めが」
オオグソクムシに『それ』を預けると、メイフはすぐに行動した。追っ手を引きつけて自らは死なねばならない。それがカイリュウの長老として最後の役目だと思ったのだ。深海魚から中層魚へと追っ手は変わり、黒い軍団の速度が上がった。
「ホオジロザメかそれともオルカか?」
メイフの脳裏にふと『ギバハチ』がよぎった。
「ギバハチよわしには解るぞ、同じカイリュウだからな。きっとお前も心の闇をダーマに利用されているのだな。だがその闇はきっと晴れる、このわしの様に。お前に与えた『竜化の術』は正しき光で強大な力になる。アガルタはこの星の全ての母だ、それを忘れるなギバハチよ……、ぐっ」
自慢の白い尾びれに、追っ手のホオジロザメが歯を打ち込んだ。海中に血の匂いが広がった。サメもオルカも一斉に、こう叫びながら襲いかかった。
「食い殺せ、食い殺せ、裏切り者のクジラを!」
メイフはそのまま、一匹も傷つける事もなく浮上を続けた。容赦ないサメの牙が次第に腹を食い破る。尾びれもちぎれとんだ、それでも海面を目指して浮上する。
「わしは、長く生きさせてもらえた,最後に天空の巫女に礼を言いたかった……」
海上に浮かんだ巨大なマッコウクジラは、既に骨のむき出しになった肉塊だった。昼の月が天上からそれを見ていただけだった。やがて巨大なマッコウクジラを見つけた捕鯨船は、既に腹のあちこちが食い破られているのを見ると、暫く周りを回っていたがどこかへ去って行った。
「サメに集団で襲われたらしい。年はとりたくないものだな」
アガルタオオグソクムシはその時の事をサメたちが得意そうに話すのを聞いた。それがメイフの最期だった。
「おお、なんと言う事だ。メイフ様を殺したのは、やはりダーマなんだな」
「はい、しかしメイフ様は自らそれを望んでいらっしゃいました。『決してアガルタのものを恨むな、タケルを助けるにはこうするしかないのだ』とおっしゃられました」
「そうだ、タケル様はご無事なのか?」
オオグソクムシは甲羅の下にしっかり結わえていた小さな包みを『エドゥル』に渡した。それは化石化した『銀色タツノオトシゴ』に似ているものだ。
「こちらでございます」
彼が『エドゥル』にそれを渡し終えるとやっとほっとした様に見えた。
「これは,銀の竜です。メイフ様の生命と引き換えにこの中にお守りされています。『エドゥル』様にお預けいたします。この中にタケル様を隠されたのは里奈様です。そのため力を使い尽くし、抵抗もできずにダーマたちに……」
「女王様が」
もはや誰が敵なのかを考える必要はない,『エドゥル』はもうひとつ聞いた。
「この銀竜をどうすれば良いのだ?」
「私はそれをセイレ様にお渡しする様に、とだけ聞いております」
オオグソクムシはそれ以上は知らなかった。
「エスメラーダの精霊がタケル様を呼び戻すとも言われました」
「エスメラーダの精霊とな」
「確かにお渡しいたしましたぞ,守備隊長『エドゥル』様」
再敬礼をしてオオグソクムシは笑った。
「隊長だけがアガルタでタケル様そしてセイレ様のお味方です」




