忘れ物
忘れ物
「気付いていたのね」
ダーマが笑った。
「クククッ、うまく女王に化けたつもりだろうが、かすかにお前からは地上の匂いがする。言え、女王は何処だ」
ダーマが触手を振るわせた。
「さあ何処かしらねぇ……」
部屋にギバが入って来た。そして首を横に振った。
「もぬけの殻だ、香奈は既に逃げ出していた」
ダーマの前に操りグモが進み出た。
「ギバ様、こいつが香奈です。ご覧なさいこうやって他人に成り済ますなんて事も平気でするのです」
ゴラムが糸を吹き出す、避ける間もない。あっという間に香奈は白いマユに閉じ込められた。
「悔しいか、アガルタではマナの力が足りまい。それとも術を使いきったか、オロシアーナの様に」
「おい、ゴラム、殺すなよ。シュラの鍵だぞこいつは」
「シュラの鍵、一体何を……」
「お前を『ゴラゾーム』に埋め込み同化させるのさ、といってももはや聞こえないかも知れないが」
しかし香奈は次第に小さくなるマユに閉じ込められたあとも、外の会話は聞こえた。
「ギバ様ご覧なさい、恐るべきムシビトたちだ。自分たちのために、他の生命体のエネルギーを吸い取り、用が済めば皆殺しにするとは」
ダーマはギバにそう言った。しかしギバはまだ完全には信じてはいないだろう。それを見てヨミの戦士ゴラムはギバに報告した。
「ギバ様、オロシアーナが殺されました。それもまたこの女によって」
「な、なんだとあの『ラナ・ポポローナ』まで」
「セイレを誕生させてくれたアガルタの恩人、オロシアーナさえ邪魔になれば殺す。それがムシビトの正体です」
「ダーマ、どうやってシュラを止めるのか聞かせてくれ」
ダーマは、香奈の入った小さなマユを拾い。ギバに手渡すと淡々としゃべった。
「香奈をシュラに埋め込むのです、シュラにあるムシビトの王の細胞『ゴラゾーム』に飲み込ませて同化させるのです。そしてその隙にコマンドを書き変えるのです」
「そんな事ができるのか」
「はい、私が知っている事をお話しいたしましょう」
ギバはマユを握ったまま、椅子に腰をかけた。地上と同じ大気のここでは彼も人型でいなければならない、セイレに会うためにそれを繰り返すうちに、もう不思議と苦痛を感じなかった。
「シュラの皮膚には最強の硬度を誇る『ゴラゾーム細胞』という、かつてゴリアンクスの王ゴラゾムの細胞が使われております。それは香奈の細胞にも受け継がれています。ゴラゾムは彼女につながる『リカーナ』の夫だったのですから」
「なんと、だからあいつらなら、シュラを制御できるという訳か、ダーマ」
「仰せの通り、しかしその中で、香奈のマナの力はやがて尽きましょう。そして残るのはヨミの力のみになった香奈、それが『ゴラゾーム』に同化する時コマンドは完全に初期化されます。しかし、新しいコマンドを書き込まなければシュラは再起動し、古いコマンドが認識されてしまう。『同化』そして『初期化』そのわずかな時が勝負です」
「では、これでアガルタ、いやこの星は救われるのか。よかった」
ギバは安堵した。しかしダーマは続けてこう言うのだった。
「まだ少し、足らぬものがあります。何人かの魚人をお借りしたいのですが?」
「何をするつもりだ?」
「どうやら香奈は、地上に大切な忘れ物をしている様でございますから……」




