マナト
マナト
地殻とマグマを包む海底の熱い岩盤、その最深部には一夜で沈んだ伝説の大陸が数多くある。長い年月のうちにマリンスノーも滞積し岩化した無数の『チモニー』と呼ばれるマグマの熱を放出する「熱処理用の煙突状の柱」が立っている。役を終えたその一つにマナトという人魚の国があった。そのマナトに香奈の姉、里奈は産まれて間もなく、預けられたのだ。
そして時は流れた、七年前までアガルタは平穏であった。
「タケル、わしも歳には勝てぬ。もう良かろう。念波を使うのも疲れた」
巨大な白いクジラはレムリアを守った若いマンジュリカーナ『なっぴ』たちの映像を止めた。
「じい様、あれが伝説のレムリアの巫女たちか、すさまじいのう。それに美しい……」
「おまえの母『里奈』とあのマンジュリカーナ『香奈』は姉妹。あの娘は、おまえのいとこになるのだ」
『じい様』と呼ばれた年老いたクジラは、『メイフ』という、アガルタ最古のカイリュウであった。永遠の命をなくすことと引き換えに最愛の人魚『カルナ』を妻にし、タケルの父『シルラ』に王位を譲った。『シルラ』はアガルタにあった大いなる災いの元『シュラ』をアガルタの地底深くに再度封印した。その際里奈はタケルを残し、マナトに去ったのだ。そして行方が知れなくなった里奈に変わって、彼は孫のタケルを育てている。あれから既に今日まで七年の時が経っていた。ニールという名の『トレジャーハンター』がマリアナで『ムラサキアコヤガイ』と真珠を『イノウエ』に渡したのは、大規模な海底地震がきっかけだった。その海底地震が起こったのは、偶然ではなく、『シュラ』のせいだった。
「ギバ様、実験は成功です。香奈の力に『シュラ』はすぐに反応しました」
「ダーマ、おまえを次元の谷で拾ったのも無駄ではなかった様だな」
「もちろんです、それに今では『機械昆虫人』だけではありません、生き残りの魚人まで集結させて強力な軍団が出来上がっております。『シュラ』のコマンドを書き換える時間も充分にあります。後ひとつ『マナの力』が揃えさえすれば」
「そうか。まずは、アマトを逃れたエスメラーダを暗殺し、『マンジュリカーナ』の隠した『マナの力』を探し出せ。そのために地上へと先刻あいつを送っている」
ギバは目の前の『エスメラーダ』の『玉座』に座り、起動させた『シュラ』を意のままに動かす日を待ちわびていた。
捕らわれのマンジュリカーナ
「あなたたちは、とんでもない事をしようとしている、『シュラ』がどんなものか知らない」
玉座に封じ込められた、香奈がそう言った。
「フフフッ、知っているさ。『シュラ』は宇宙一の科学者の作った『インセクトロイド』だ。その使命は『生命体のいる惑星』を探し、それらを殲滅、母星にその位置を知らせて誘導する。『惑星探査』と言えば聞こえはいいがな……」
ギバは笑った。『シュラ』に与えられた使命は、後にこの星に移住し、『レムリア王国』の女王となった『リカーナ』の考えとはまったく違うものだ。それも仕方ない、当時『ムシビト』の母星『ルノクス』にも『ゴリアンクス』にも生命体絶滅の状況が迫ってきていたのだった。
「この星に届いた『シュラ』は起動するエネルギーを失い、このアガルタに沈んだ。そしてその数年後に、お前たちの祖先がこの星にやってきたと言う訳だ。わしも知らなかった、アガルタの深い底にこんな『切り札』があったなどとはな」
ギバの指差す先に、塩水に沈んだままの赤色の楕円型の球体があった。それが『シュラ』だ。香奈は数日前に同様の球体が、はるか外宇宙からこの星に向かっている事を『オロス』の巫女『オロシアーナ』から聞いていた。
(もうひとつの危機が、この星に向かっている、その事を彼らは、おそらくまだ知らない。その正体は解らないけれど、最大の危機が迫っているのは間違いない。早く、なっぴたちに知らせなければ)
しかし、真珠玉の中の香奈にはもはやどうする事も出来なかった。
(はやく、『虹のプローチ』に気付いて、なっぴ……)
香奈は『マナの力』を地上に残したまま、このマナトに転移したのだった。『マナの力』によって『シュラ』は再び起動する。それは『シュラ』を作り出したのが『ゴリアンクス』の『ムシビト』であったからだ。