穴堀の歌
穴堀の歌
「もしそうなら、諦めるのはまだ速いぞ」
ラクレスが王たちにそう言った。
「やれやれ、トレニアの丘でまた穴を掘るのか」
コウカがそう言って逞しい角を振るわせて苦笑いをした。
早速トレニアの丘はムシビト総出で掘り返された。王たちは角で岩盤を削る。クワガタたちは大あごを地面に打ち込む。ケラやジグモは地中を探しながら土を掘りやすいように柔らかくした。飛べるものは空を飛び、掘り出した土を運ぶ。這うものは岩を引きずり、穴堀の最中に怪我をしたものは女たちが介抱する。あれほど広かったトレニアの丘はほとんど調べられた。日が暮れる頃には城の付近を残すのみとなった。夜は蛍たちの明かりに照らされながらも終わりの無い作業が続く。
かけ声はいつしか歌になり、城の周りに響き渡った、曲などというものはてんでばらばらだ。しかし歌詞は単純だった。
「マンジュリカーナ、マンジュリカーナ」
と二度繰り返し、そしてそれに応える。
「おーや、カブトよ。何処にいる」
すると最後にこう言うだけだ。
「ここ、ここ、ちょいと深いとこ」
夜が開けた。うれしい知らせが王宮から届く、女王『ラベンデュラ』がやっと目を覚ましたという知らせだ。さっそく王宮に王たちは集まる事になった。
「人間界の様子が解るらしい、行くぞコウカ」
ラクレスがそう言って、岩に腰掛けたまま眠っているコオカを起こした。既に起きていたドルクとカブトは地面に再び角を打ち込んでいた。
(こいつらには負けるな、きっと黄金のカブトを探し当ててくれる)
ラクレスは、声をかけずにコオカとともに王宮に向った。
「行かぬのか、カブト」
「ええ、もう暫く深く掘ってみます。兄どのは?」
「決まっているだろう、聞くな」
それに気付いた兄弟は『トレニアの丘』の大半を掘り尽くすと、さらにもう一段深くを掘り進んでいく。
王宮ではようやく目覚めたラベンデュラがなっぴの様子をムシビトたちに見せようとしていた。しかしそのためにはマンジュリカーナの残した最後の『虹の力』を集めなければならない。『デュランタ(テンテン)』と『ゲンチアーナ(リンリン)』はその頃虹のほこらにいた。
「各地からムシビトが集まるのにまだ数日かかる。これが最後の交信になるかも知れない」
女王はときにはまた気を失いかけながら、その事にすでに気付いていた。
「あった、姉さんこれに違いない。母さんも決して空けていない、おそらくこれが鍵よ」
「そうね、それが『虹の鍵』ね、虹のほこらの扉を開ける鍵だわ」
テンテンは妹の探し出した箱の封印を解くと小さな鍵を取り出した。それが異界に持ち出さなかった『マンジュリカーナの力』の残りだった。鍵を使いほこらの扉の中から何の変哲も無い、七色の原石をとりだした。虹色テントウの姉妹は少し拍子抜けした。
「私たちの『虹のかけら』といったいどこが違うのかしら? こんなにも厳重に封印してあるなんて」
テンテンはリンリンの言葉に頷いた。
「明日までにこれを二人で磨きましょう。女王のおっしゃる通りなら、これを使えばでなっぴたちの役に立つはずだわ、リンリン」
「ええ、お姉様」
「お姉様かぁ、後少しで私もおばさまね」
ひとつづつ七つの原石は磨かれると、その力はすぐ姉妹には解った。明らかに深い七色のそれは命そのものの光なのだが、初めて見る二人はそんなことは知らなかった。
「身軽になったら、私もまたなっぴに会いにいきたいなぁ」
「そうね、向こうで同窓会ね」
テンテンはほんの一瞬顔をくもらせた。しかしまたいつもの様に妹を叱った。
「そこまだ汚れている、まったく。お城の掃除ちゃんとしているのかしら?」
「してますよーだ」
エビネ城の『掃除ゴミムシ』がくしゃみを繰り返した。
「おや風邪でもひいたか、しかし休むとすぐめちゃくちゃだからな、まったくこのお城は……」




