取引
取引
リカーナがムシビトたちの新しい命として誕生した時、ルノクスの女王は安心した。王女『リカーナ』は時折気を失う事があるが、それはラグナとの『取引』だった。
「……それは造作も無い。見たところお前には素質があるからな、わしの力をわけてやれば、王は甦る。それにお前たちの生体エネルギーを奪うのもこれきりにしてやってもいい、どうせ滅びるムシビトたちだ」
ラグナは羽の体液が乾くのを待ちながら『にやり』と笑った。今日の女王は巫女としてある、先日以来病床に伏したルノクス王を回復させる祈祷を行っていたのだ。その石の様になった右腕からはい出したラグナが脱皮をしたのに驚き、そして女王は『ラグナ・マルマ』の存在について初めて知ったのだった。
(わしが見えるというこの女には素質がある。マナあるいはヨミの力がこいつには宿るのだろう。とはいえまさかこの星のムシビトたちに見つかるとは思っていなかったが)
「本当に王の体を元に戻せるのなら、その方法を教えてください」
女王は自らの命を捧げる事を約束して王の体を再生させた。そして王女リカーナにその禁呪を伝授したのだ。
「この術は、宇宙の真理に逆らっている。その代償は大きい。使い方を間違ってはなりませんよ、リカーナ」
王女はそう娘に言い残し、ラグナとともにこつ然と消えた。ムシビトたちはそんな取引があった事は知らない。リカーナの母は術の失敗で死んだ事になっていた。やがて最後の王女リカーナはゴラゾム、ビートラとともに放浪の旅に旅立ったのだ。
再生の禁呪はリカーナの体に封じ込められていた。そして最愛のゴラゾム、ビートラにさえその術は使われる事は無かった。それは『生と死を軽んじることになる』とリカーナには思えたからだった。リカーナはマンジュが産まれたのはマナとヨミの力を持ち、ラグナを制御せよというタオの意志だと思っていた。その使命はいつか果たす時が来る、たとえ何世代かかろうと、それがマンジュリカーナの役目なのだと。代々続くマンジュリカーナの役目はこうしてはじまった。
「これは一体何かしら?」
洞窟で娘が見つけたのは、かさかさの皮のようなものだった。娘はそれを宝物の様に大切に城に持ち帰った。
「これを何処で? すぐそこへ案内しなさい」
リカーナはそれを見て、三姉妹に尋ねた。それはラグナの脱皮殻だった。
「これが、ラグナ・マルマ。母をそしてルノクスを私たちから奪った」
リカーナはその怒りからヨミの花園に駆けつけたのではない。
「この星にラグナがいるという事は私たちと同じ様に寄生されたムシビトがいる、このままではこの星は滅ぶしか無い、救わなければ。自分よりもマンジュの方が術は優れているかもしれない、しかしマンジュに『それ』をさせるわけにはいかない、母が私にしてくれた様に私がせねばならない」




