エスメラーダ
エスメラーダ
なっぴの父は半導体関連の技術者で、出張が多い。帰宅するのは次の週末だ。アカデミアから戻ったなっぴの家に皆がやってきた。
「では姫様をお願いいたします」
ミコがアカデミアから持ち出した真珠玉をなっぴに渡した。水槽内では野球のボール大だったそれはピンポン球くらいになっている、マイは『アクア・エスメラルダ』の封印を解いた。
「ここが、人間界というものか」
「ち、ちょっと何か着るもの持ってくるから。こら、タイスケ向こう見てなさいよ!」
エスメラーダは真っ裸だった。ひれもない、どう見ても人魚には見えなかった。
「人間は地上ではこんな減圧スーツを着るのか?」
「いえ、それはスーツとは呼びません。気分によって取り替える『服』というものです。今姫がお召しのものは『ワンピース』というものでしょう」
ミコはそう説明した。ミコと違い肺を持つエスメラーダは減圧スーツによって海水を排出し、肺に空気を満たせば一気圧の地上に立つことができる。その減圧スーツを来て浮上してくる姿を人間は『人魚』と呼んでいた。
ミコは改めて自己紹介をした。彼は中深層(水深二百〜千メートル)を生活圏にしている『リュウグウノツカイ』だという。エスメラーダをガードするために、事前に人間界に送られていた、それは香奈が手助けをしてくれたのだと言う。
「マンジュリカーナ(香奈)は『アガルタ』にいらっしゃいます。私の身代わりになって」
エスメラーダはなっぴ達にそのいきさつを話した。それを聞いていくうちになっぴは香奈の意識が半年以上も戻らない訳をようやく知った。エスメラーダはマリアナ海溝にあるシャングリラ、『マナト』について語りはじめた。
シュラ
「『シュラ』が目覚めるのは近うございます」
奇妙な減圧スーツを着た男が、巨大なオルカの前に膝まずくと、そう報告した。
「この星を我がものとするのはたやすい事だ。『アガルタ』の守護神となった『シュラ』を暴れさせるだけでいい。」
マナトの洞窟が壊れる様な海底地震が起こったのは、その『シュラ』のせいなのだ。
「しかし、持ち去られたのがエスメラーダの眠るアコヤガイだったとはな……。お陰で少し時間がかかった。『シュラ』を目覚めさせるための『スペア・キー』が自分から転がり込んできたからいいようなものだが」
「ヨミ様が『シルラ』の力を連れて行かれたため、計画が少し延びましたが」
「ふふん、それ以上に強力な鍵が手に入ったのだから、良しとしよう、ダーマ」
オルカは透明な真珠玉に閉じ込められた『マンジュリカーナ』を見て笑った。
「あわれなものよの、ヨミを消し去るほどの力を持ちながらエスメラーダに加担するとは、それが父親から受け継いだアガルタの血と言うべきものなのか」
「あの女の事をご存知だったのですか?」
「ああ、母親の巫女のこともな」
時は過去に少し遡る…
それは七年前、アガルタでのことだった。
「なにっ、馬鹿な事をいうな。カイリュウが、いやヨミ様が敗れただとっ、『シルラ』の力を使ってもか」
信じられん、やはり恐るべきはマンジュリカーナの血筋。既に覚醒しておるのか?」
「はい、『香奈』の娘がレムリアでどうやら覚醒した様でございます」
里香とエスメラーダ、オロシアーナの血を受け継ぐラナ。シャングリラを救った、二人の巫女はヤマタノオロチを封印した。里香はカイリュウ、シラトと『アキツ』に渡り、そこで結ばれた、娘は二人あった。一人はカイリュウの血を強く引く里奈。そのため地上ではなく、マナトで育てられた。もう一人の娘とは香奈のことだ。その娘はマンジュリカーナとして覚醒した。二人には、ともにレムリアの血が流れている。それは妹の香奈により濃く受け継げられていた。