エピソード.1 さまようアゲハ
さまようアゲハ
「ついに『ラクレス』様の動く時がきた」
少し興奮気味の『フランタイヤンマ』はそう恋人に告げた。
「ヤンマ様、ご武運をお祈りしています」
「ああ、シルティ(カタビラアゲハの名)。王の理想、新王国設立のため、この命を賭けよう。その後、きっと私の妻になってくれ」
「もちろんです、そのために私は……」
彼女はセブリアのフランヌとともに、巫女の修行をしていた。止まぬ大雨と原因不明の奇病『眠り病』が蔓延するセブリア、それを救うために、この王国をもう一度作り直す。
「イトの封印を解き放ち自らその寄り代となり王国を再びつなげる……」
そのために王が蜂起するのだという。何度彼から聞かされたろうか。ラクレスを引き止めていた女王フランヌさえもついに病に倒れたのだ。シルティは本来それを止めねばならない。しかし彼女はセブリアの巫女としてではなく、愛しい男の無事を祈る、一人の女を選んだ。
ヤンマは二度と戻ることはなかった。
「きっと、何かの間違い、ヤンマ様が死ぬ訳はない。あの強く美しいヤンマ様が……」
ヤンマの安否を確認するため、たまらず彼女は海を越え、ナノリアに向かった。ただの一人も『カラスヤンマ』はセブリアには残っていなかった。止むこともない大雨と風の中を純白の羽を懸命に振る、白いアゲハはその羽も次第に破れ、すり切れていった。
「突然現れたナノリアのムシビトによって守備隊は全滅です。ヤンマ様も『ワケミカマキリ』様、『デンネツカメムシ』様まで、突然現れたやつらは、強かった……」
シカバネカナブンがそう彼女に伝えた。
「おのれっ!ナノリアのムシビトめ!」
それを聞いたシルティはふらふらと崩れた城郭を歩き、ようやくヤンマのちぎれた羽を見つけた。それを見た彼女は夜叉の形相で何処かへ姿を消した。やがて『次元の谷』に彼女はたどり着いた。
「いつかここにムシビトの魂は集まる……」そこは巫女の修行でいくつも術を学んだ『次元の谷』だった。
「ヤンマ様あの世で私を妻にしてください」
シルティは自ら命を絶った。一部始終を見ていたのが、『ダーマ』だ。まだ力が完全に戻っていなかったが、『ラグナ』を埋め込むことはできた。息を吹き返した彼女に『ダーマ』はささやいた。
「戦いは終わった、ナノリアのムシビトは異界から卑怯にも『マンジュリカーナ』と言う『妖術使い』を呼び寄せ、謀反人としてラクレス、コオカたちを全滅させた。そして今やレムリア王国として支配している。勝負は時の運、どちらが正しいとは言えまいが、異界から『妖術使い』を呼び寄せるとはな……」
「マンジュリカーナ、おのれその名、決して忘れるものか、決して」
「カタビラアゲハよ今はまだ早い、マンジュリカーナによってだまし討ちにされたものは異界にもいる。わしもその一人、お前の命をわしに預けてくれぬか。じきに仇を討つために大勢が立ち上がる、その日までともに耐えるのだ、シルティ」
ダーマは巧みにそう言った。
「一度は死んだこの命、マンジュリカーナを殺せるのならたとえその日が千年先でも待ちましょう」
そう答えたカタビラアゲハは、やがてダーマとともに異界に消えた。




