黒龍刀
黒龍刀
「仕方がない、私にひとつだけ許されたフェンシングで戦おう」
由美子はラペを取り出し、アンガルトを決めた。先を平坦にしたラペは殺傷能力がない、しかし大ムカデの攻撃を避ける事はできる、そう思ったのだ。
「そんなもので、戦う? なんの余裕だ」
「リンリン、これが私に扱えるかしらね」
元々それは漆黒テントウに姿を変えたリンリンが『ラクレス』から渡された『ブラック・ダーク』だった。
「これは、私の新しい武器『黒いラペ』という。父が鍛え直し作ってくれたもの。さあかかって来い!」
「フフッ、面白い。そんなフャフニャの剣が役に立つと思っているのか、岩をも切り取る大ムカデの牙に」
大ムカデが鎌首をもたげた。見かけによらず俊敏だ。その一撃が放たれた。
「ギル?」
何が起こったのか、大ムカデは奇怪な声を上げた。しかしそれ以上に驚いたのは、ゴラムだった。彼はその目を疑った。たった今長い体だった大ムカデの胴が横一文字に分断されたのだ、しかもわずかな音とともに。その細い剣がそれほどのものとは思えない、ゴラムがすぐ言った。
「お前、その切れ味は、この世のものか?」
「言ったでしょう、父が鍛え直した新しい武器『黒いラペ』だってね」
しかし、再び合体した大ムカデが牙をむく、再生する限り決着はつかない。
「お前の父とは、まさかヨミ族の……」
「黒サソリに殺された『ダゴス』知らないとは言わせないわ」
「おい、ゴラム。間違いあるまい」
赤ムカデのガラムがそう言って振り返った。
「おそらくそうだ、しかし今まで見つからなかったのは何故だ」
「何言ってんだか、えいっ!」
大ムカデは一振りで今度は左右に分断された。それを見て、ゆっくりとゴラムは由美子に近づき、カチカチと牙を鳴らした。
「それは『黒龍刀』、ツクヨミの『力』だ。アマオロスの『白龍刀』とともに『聖神の力』と呼ばれるものだ、さあ渡してもらおう、それとも俺を斬るか?」
大ムカデはまたしても再生した。
「斬るわ、父の仇覚悟しろ!」
由美子が怒りとともに、ラペを突いた。しかしぐにゃりと曲がるだけだった。驚く彼女にそのラペを握り、ゴラムは笑った。
「クククッ、この剣はなヨミ族を殺す武器ではないのだ。残念だな」
彼女はゴラムの手からラペをひき抜くと後ろへ一歩とび退いた。
「じゃあ、何故ラグナは」
「それは言えないな、それにラグナはいくら切り刻んでも死ぬ事はない。神の子だからな」
「神の子?」
「そうか、お前は知らないのか。『ラグナ・マルマ』は、タオの産んだ三番目の神。マオ、ヨミに続く神だったのさ。少し早く産まれただけに、人型にはなれなかった。驚きだろう、聖五神の産まれる遥か昔に既に実体のある神が産まれたという事が」
「おしゃべりはよせ、まずはこいつらを片付けてからだ、『黒龍刀』はその後だ」
「そうだな、行け。分身たち」
同時に大グモが糸を吐き、なっぴのバイオレット・キューを絡めた。彼女は握った方をすくいあげる様にしてその粘着糸を切る。そして振り下ろすキューは大グモの眉間に命中した。ひるむ大グモに今度は『ブルー・メラン』を投げつける。
「ほう今度は別のおもちゃかい?」
苦戦するなっぴをあざ笑い、ゴラムは、由美子を捉えた大ムカデに命令した。
「ひるむなよ、お前は不死身だ。ゆっくり羽のないアゲハをしとめろ」
「ギルル」
大ムカデは体をさらにのばし、今度は丸まって球体に変わる。そして回転を始めた。
「今度はその剣をはじき跳ばしてやろう」




