約束
約束
妻の死を冷静に受け止めたイノウエは、葬儀が終わると彼女とオロスを離れ、日本に連れ帰った。祖母も母と一緒になくした彼女もオロスに残るつもりもなかった。ミーシャがその刀を見つけたのは、日本に来て五年目の秋だった。
「なあにこれは?」
納屋で見つけたのは古い守り刀のようだった。イノウエは古い家柄でいろんなものが納屋にはあった。古い武具や調度品、そして彼が若い頃海の底から引き上げたり買い求めた人魚に関わる品々が所狭しと置いてあった。大抵は偽物だろうがその中には彼の祖父が持っていた『人魚の卵』も含まれていた。そのときふとあの刀の事をミーシャは思い出したのである。
「えっ、何この刀!」
彼女が首を傾げたのも仕方ない。その刀は『成長』していたのだ。ミーシャはその太刀を握ると、父に見せ、尋ねた。
「父さん、この刀一体なんなの?」
「美沙、お前の守り刀さ。おばあさまの刀さ。昔はみんなそんなのを持っていたのさ」
もちろんそんなことは知っていたが、聞きたい事は別だ。彼女はその刀が『成長』している事を説明した。それを黙って聞き終えると父は彼女から刀を受け取り、鞘から抜けない様に柄と鞘を固く縛り、黄色の札を貼った。
「これはお前の守り刀、たった数年でこれだけの長さになったというのは、それだけの妖気がお前を狙っているという事だ。ミーナの命を奪った者に違いない。いいか、この刀は母の寄り代となっている。お前がこの刀を抜くとき、お前は祖母が残したこの刀に込めたオロスの奥義を修得する。『天から海へ』と『生命の光』を授ける『アマオロス』の巫女、ヒメカの伝承者として……。しかしそうなればお前は、その敵におまえの存在をすべてさらす様になる。オロシアーナはもう後戻りはできない。私の父、母、祖父、お前の祖母、そしてミーナ、もうこれ以上家族が死んでいく事は私には絶えられない。いいか、決してオロシアーナになってはいかん。母のことを敵に知らせるきっかけになった『人魚の卵と転生』。あの論文を書いてしまった、この父との約束だ。いいな、美沙」
「父のせいで母さんは死んだ、それを聞いた私は父を許せなかった。でもセイレを通じて分かった事がある。母様を殺したのはダーマ、そのとき母さんは覚醒の途中だったにもかかわらず。私を守るためにその全ての力を使った事を。私をかばって倒れた父を封印してくれたマイ、それを解ける『天空の巫女』なっぴ、そしてあの青いアゲハはおそらくマイと同じムシビトの巫女。祓わなければならない、それがヒメカの意思なら、今、オロシアーナは立ち向かう」
赤ムカデは新たな敵を見つけた。しかし捕らえたアゲハを話そうとはしない。尾が根元からすっぽり抜けた。そしてさらに締め上げる。
「これで動けまい、そこでこの『サムライ女』が真っ赤に染まるのを見ていな、ゲハハハッ」
身軽になったガラムは、ミーシャに、じりじりとにじり寄った。




