サムライ女
サムライ女
前に立った由美子にガラムは驚きの声を上げた。
「お前が、カタビラアゲハのラグナを抜き去ったのか。余計な事をしたと後悔するぞ!」
由美子がまるで何かに取り憑かれた様に、うなだれ、低く声を漏らした。
「何故こんな事をしている、人間界に用はないはず、そこまで堕ちたか、赤ムカデ」
その声は聞き覚えがあった。まぎれもない『ダゴス』の声だ。
「グルルッ、見え透いた手を使いやがる。亡霊にわしが倒せると思うのか、浅はかな事だ」
「だめか、油断するかと思ったけど。仕方ない。いっぱいあるその腕、何本か切り落とさせてもらうわ。ドモンごめんなさい、なっぴが危ないから少し暴れるわね」
そう言うと由美子は、なっぴからはじき飛ばされた『黄龍刀』を中心から二分した。
「久し振りにアゲハの舞、いくわよっ!」
ブルー・ストゥールを再び身につけ飛び上がった由美子が空中で舞い着地した、音を立ててガラムの無数の腕が斬りおとされた。
「ムン」
かけ声とともに、ガラムは新しい腕をのばした。それはラグナの力ではない。
「なかなか素早い、しかしわしは『再生ムカデ』この力は『ヨミ族』の中で最高のものだ。お前たちに俺を殺せるものか」
気を失ったなっぴを見て、ガラムはまずは由美子を倒そうと牙を剥いた。両肩の傷も気にならなくなっていた。
ガラムの長いしっぽが、ゆらゆらとまるで別の生き物の様に、彼女の隙をうかがっている。由美子は再びツインドラゴンを振るった。しかし結果は同じだった。
「クククッ、無駄だと言ったろ、今度はこっちから行くぞ」
長いしっぽがさらに伸び、まるで手をのばす様に飛び上がった由美子の足首に絡み付いた。倒れた由美子を怪力でガラムが引き寄せる。
ガラムが由美子の首に狙いを付けた時だった。
「ゴフッ」
ガラムの後頭部にコブシ大の岩が命中した。振り返ったガラムの目に、浜から一直線で駆けてくるものが飛び込んだ。いったいどこにしまってあったのか、ミーシャは白装束に長い刀を腰に差したまま砂に足を取られる事もなく駆けてくる。それは金髪と青い目をのぞけば、アガルタを救った『ラナ・ポポローナ』に見まがう姿だった。
「父さん、ミーシャは約束を破ります。オロシアーナの役目を果たします」
彼女はその長刀のさやひもを引きちぎった。柄を握ると金色の髪が黒髪に、そして淡いブルーの瞳も次第に濃く色づいていった。彼女の叫び声が届く。
「オロシアーナ!」
長刀を抜いたミーシャは、駆け寄る途中にくくりつけられた縄を切り、ミコとセイレを人柱から解放した。
「戻れっ、私の鱗粉たち」
それを見た『シルティ』は『吸血鱗粉』を消し、見る間に二人には生気が戻る。
「あの娘が『ヒメカ』の力を伝承する巫女か、まさしく白龍の名にふさわしい」
セイレの体の中で里奈とミーナはそのオロシアーナをじっと見ていた。ミーナは勇ましい娘を見て思った。
(ミーシャ、あなたではまだその刀は扱えないかもしれない、でも行きなさい。父さんもきっとそう言うにちがいないわ)




