母の仇
母の仇
トレジャーボートの三人は、着岸ボートがないために、なっぴたちを見守るしかなかった。フクロウナギがタイスケに頼んだ。思いがけない言葉を魚人は言ったのだ。
「さあそろそろ俺を海中へ蹴落とせ、うまくやれよ」
「おまえ何言い出すんだ」
魚人の傷口を見た彼が、少し躊躇した。
「急げ、馬鹿やろう!」
タイスケはその言葉に迫力さえ感じ、言う通りにした。
「畜生、ゴムボートまで持っていきやがって!」
トレジャーボートから腹立ちまぎれに魚人を蹴飛ばすタイスケが赤ムカデの目に映った。
由美子の投げた刀をみて赤ムカデが鼻で笑った。
「それは、ヨミ族の首長の持つ剣。お前ごときに扱えるものか、俺によこせ」
なっぴはそれを抜くと上段に構えた。
「藍龍刀『インディゴ・ソード』よ私とともに戦え、『バイオレット・キュー』」
コマンダーに藍龍刀が吸い込まれ、藍色の光が強まった。
バイオレット・キューを手にしたなっぴは長い黒髪となり、ガラムの前に立ちはだかった。
(変ね、髪はまだ黒髪、何かが足りないのかしら? でも感じる、確実に私の力が戻っていく)
「『メタモルフォーゼ』完了、行くわよ」
「こい、ダゴス同様、赤ムカデのガラムがバラバラにしてやる」
それを聞くとなっぴはダゴスの死を悟った。
「由美子、ダゴスの死はどんなにか、悲しかったでしょうね。ダゴスの無念を晴らすのは私の役目、遠慮はしないわ」
キューを後ろ手にかまえ、なっぴは叫んだ。
「レムリアのムシビトたちの意思のもと、ガラムお前を倒す」
「ギハハハハッ、そんな棒切れで本気で向って来るというのか。あの愚かなオロスの巫女の時の様に……」
その声が、遠く海上のミーシャにも聞こえた。
「あいつが、母さんを殺したのか。ボートがあれば私がこの手で」
『ミーシャ』は母の仇をついに見つけた。しかし浜まで向う手だてがない。そのとき左舷の海面が盛りあがってきた。
(こんな時に、また新たな敵が来たのか……)
三人は身構えた。
それは直径数メートルもあろうかという巨大な『クラゲ』だった。薄桃色の傘の『ぬめり』が光を受けて輝いていた。海中からフクロウナギの声が小さいが、しかしはっきりと三人の耳に届いた。
「そいつは、俺の親友『ジル』という『アガルタオオクラゲ』だ安心しな、人間くらいは乗せて泳げる。ただちょっと滑りやすいがな。『シビレクラゲ』には船の周りを何重も囲ませておく、マリアナまで安心して行ける様に」
話が終わらないうちに『ミーシャ』は『ジル』の上に飛び乗った。なおも声が聞こえた。
「タイスケ、俺はアガルタの『守備隊長』だった。『メイフ様』と『タケル様』が消えて、何もしなかった訳じゃあない。クラゲたちを使って全ての海を探した。しかし見つけることはできなかった。しかしセイレ様は一体どこにいたのだろうか?」
「教えてあげるわ、『セイレ』は女王に頼まれたなっぴの母さんの力でもう一度『ミドリアコヤガイ』の中で眠らされていたのよ。それがアコヤガイごと地上に持ち出されたから、あなたたちには見つけられなかったのよ」
「なるほどな、おかしいと思った、偽物が突然地上に現れるなんてな『ダーマ』の奴それならメイフ様が浜に打ち上げられていたというのも信じるわけにはいかない。クラゲの行けない深海かもしれん、もう一度調べてみよう」
マイはひとつほっとした、『アガルタ』の闇のひとつが今晴れようとしていたのだ。
「どうやら、あの青いアゲハはヨミ族に関わる娘らしい。ザラムの無念を晴らしてやろう。ダーマ、わしも行く」
地上の様子をアガルタから見ていた『ゴラム』はそう言うと地上につながる『チムニー』をなっぴたちのいる浜に向けた。




