第三章 さまようアゲハ
第三章 さまようアゲハ
『カタビラアゲハ』はそれをすぐには信じられなかった。『コオカ』と『ラクレス』がレムリアで生きている、しかもそれぞれの国の王として。ナノリアの女王を幽閉し、いよいよラクレスが動く時がきたと『フランタイヤンマ』から聞かされたのがついさっきのことの様に思い出された。
「ヤンマ様、ご武運をお祈りしています」
「ああ、シルティ(カタビラアゲハの名)。王の理想、新王国設立のため、この命を賭けよう。その後、きっと私の妻になってくれ」
ヤンマはしかし二度と戻ることはなかった。彼女はセブリアから海を越え、ナノリアに向かった。海を渡れるカラスヤンマもいない、止むこともない大雨と風に逆らいながらひたすら飛ぶ姿は、『眠り病』で眠ったままの『フランヌ』に劣らぬ容姿だったのだが、大海をさまよううちにその純白の羽は破れ、すり切れていった。
「突然現れたナノリアのムシビトによって守備隊は全滅です。ヤンマ様も『ワケミカマキリ』様、『デンネツカメムシ』様まで」
シカバネカナブンがそう彼女に伝えた。それを聞いた白いアゲハは絶望と怒りで夜叉となり何処かへ姿を消したのである。やがて者の集まると言う『次元の谷』にたどり着いた彼女はそこでダーマに会い、『ラグナ』を埋め込まれた。彼女はナノリアのムシビトの救世主となった『マンジュリカーナ』への恨みで今日まで生きていたと言っていい。戦いに破れた『ラクレス』と『コオカ』が無事でいることもだが、この娘のために二人の王が大切な角を削るなどとうてい信じられなかった。
「二人の王は、国民のために立ち上がった。たとえ自分が反逆者として、悪魔に心を売り渡しても……。それを知りながらも、二人を阻止し、ついに倒したのが『マンジュリカーナ』、あのなっぴ。その二人が『武の象徴』である角さえ削り、ダーマに立ち向かうため協力をしたのが何よりの証拠よ、シルティ」
由美子がそう言った。
「シルティ、私をそう呼んでくれていたヤンマ様は、死んで、もう死んでしまったのよっ!」
突然短剣を握り直し、それでも『カタビラアゲハ』は由美子に斬りかかった。
不意をつかれて由美子は右の肩を貫かれた。
「うっ」
しかし、そのうめき声一つで由美子はこらえる。『ツインドラゴン』を藍龍刀『インディゴ・ソード』に納めると、なっぴに向って投げ渡した。
「由美子、これを渡して大丈夫なの?」
ガラムの牙をかわしながら、ソードを受け取ると、なっぴが心配そうに上空を見上げた。
「ドモンが言っていたの、インディゴ・ソードならヨミの戦士と互角に戦えるんじゃあないかって」
「気は確か? 武器もなしで私と戦うってのかい」
「戦う? あなたからラグナを追い出すのに武器などいらない、見せてあげる、フローラ国の『青龍刀』の力を」
由美子はそう言うと背中で蝶結びをしていた『ブルー・ストゥール』をほどいた。
「ゆけっ、『ブルー・ストゥール』、ラグナを追い出せ!」




