妖蝶「カタビラアゲハ」
妖蝶「カタビラアゲハ」
「花びらが舞い降りていく……」
なっぴたちの上空から白い花びらのようなものがいくつも落ちて来た。マイはそれを見てそうつぶやいた。
「あれがガラム様の贈り物か、なるほどな」
フクロウナギが感心した。
その花びらは三本の人柱に降り積もり、たちまち雪像が三体できあがる。
「あれは、白い蝶?」
マイが「それ」に気が付いた。
「どう、きれいでしょう? 真っ白な衣装になったあなたたちは」
そう言ったのは真っ白いアゲハチョウの虫人だった。
「よく来た『カタビラアゲハ』相変わらず鮮やかなお手並みだな」
「あら、ほめ上手は相変わらずね、赤ムカデ様。この小娘らが『フランタイヤンマ』を倒したというの?」
「まあ、こいつが倒したのではないがな」
「あら残念。まあいいわ、今までのお礼はたっぷりしてあげる。一回目のお色直しよ!」
「うっ」
見る間に三人に張り付いた白い花びらのようなものが色を変えていく。なっぴは真っ赤に染まり、セイレは緑、そしてミコの体は全身が紫に変わった。薄い花びらのようなものが膨らんでいるように見えた。
それは、恐ろしい『吸血鱗粉』という『カタビラアゲハ』の武器だったのだ。
「どう、体中の血が吸い取られる気分は。こっちはきれいな緑色なのね、紫まであるなんて、なんて美しい死に装束」
「おい『カタビラアゲハ』まだこいつらは殺すなよ。『精気』を抜いてからだ」
「ほほほっ、わかっていますって。さあ、どいつからだ。黒髪のお転婆かいっ!」
態度の豹変した『カタビラアゲハ』はその巻き上げていた黄色い口吻を長くのばし、なっぴの胸元に一直線に向かった。なっぴは体に力が入らないまま、上空をうつろに見上げるだけだった。縛り付けられた体は自由が利かなかった」
「……だめだ、やられる……」
なっぴはそれでも『きっ』と目を見据えた。
次の瞬間『カタビラアゲハ』の真っ赤な目と黄色の口吻が、彼女の視界から突然消えた。
天空のアゲハ
「なっぴ、これを使って、新しいコマンドスーツを持って来たわ」
虫人に体当たりをしたのは、聞き覚えのある声だ。なっぴの縄を切り、すぐに飛び上がったその背中には、青いストゥールの「蝶結び」が見えた。手渡された髪飾り、緑と橙色の縞模様のカプセル……。
「由美子、ありがとう。もう百人力よ」
なっぴは涙が出そうだった。
「話はあと、さあカプセルを開いて」
「わかった」
なっぴがカプセルを開いた。なっぴの周りの赤い『花びら』が一瞬で色を失い、地面に落ちた。溶けるように消える「吸血鱗粉」、やっとなっぴの顔色が戻った。
「セットアップ、コマンドスーツ!」
アカデミアの制服が色を失い、なっぴの体に沿って編み目のように体を包む。そしてカプセルから数本の糸が今度は繭を作るかのように『吐き』出されていった。
「その糸は、天羽が紡ぎ、虹の池で清め、イトの風で乾かしたもの。『テンテン』と『リンリン』が何日もかかって織った、あなたの新しいコマンドスーツよ!」
「レムリアの皆の気持ちが伝わる……」
ようやく体制を整えた『カタビラアゲハ』が由美子を見て言った。
「ほっほっほ、どんな助っ人かと思えば、『お花の国のお姫様』かい、見かけによらず、とんだ跳ねっ返りだね。代わりにその青い服をいただこうかねぇ」
「あら、私のこと知ってるの?」
「ああ、フローラ国のお転婆の話は、よくヤンマ様が話していたからね」
「ヤンマ様?」
「覚えてもいないのかい、お前たちに殺された『フランタイヤンマ』私の恋人だったヤンマさ」
『フランタイヤンマ』それは女王『ラベンデュラ』を奪い返す時に、由美子たちの前に立ちはだかった『セブリア』の戦士の名前だ。
「戦さだから戦士が死ぬのは仕方ないだとでも思っているのかい。いいかい、そんな戦士にも恋人や家族があるんだよっ!」
カタビラアゲハは長いラペを抜いた。
「さあ、かかっておいで。王家のたしなみ程度はしているだろう、お姫様?」
しかし、由美子は剣を抜かなかった。
「ふん、あいにくだがたとえ丸腰のお姫様だろうと、容赦はしない。ひと突きで殺してやるよ、覚悟しな」
実は由美子は『カタビラアゲハ』のことを知っていた。『ラクレス』の治める『セブリア』でその容姿は評判で『フランヌ(アイリス)』が病床に着いた時、もしもの時は王を頼むとまで言ったという。ただ彼女はすでに心に決めた人がいると『フランヌ』に断ったらしいがその相手が『フランタイヤンマ』だとは誰も知らなかった。
カタビラアゲハの繰り出すラペが少しずつ鋭くなってくる、ついに由美子は『黄龍刀』を手にした。
「ツイン・ドラゴン。『アゲハの舞い』、さあ、いくわよ」
「ほほほっ、さあ来い。お姫様」




