人柱
人柱
巨大な渦は『amato2』の行く手を遮り轟音をたてている。タイスケは慎重に海底レーダーを見ながら操舵する。決して大型ではないものの船底は岩礁に接触寸前だ。座礁すれば探査艇が損傷するのは目に見えている、球型の本体以外は『新耐圧殻』ではないのだ。さらに震度は浅くなり、タイスケは潮時表を確認した。今が潮止まりだ。
「とりあえず、アンカーを下ろしましょう。海底を見てきます」
『ミコ』が船尾から海に飛び込んだ。潮が動き始めるまで動けなかった。
「ミコはどこまで行ったのかしら?」
『セイレ』が不安気に船尾をもう一度見た。人影が船尾に這い上がった。
「どうだったミコ?」
「残念だな、お仲間でなくて」
「こいつ、まだ懲りてないのか」
「おっと、その前にあっちを見ろ、殴り掛かるならそのあとだ」
『フクロウナギ』の指差す島の浜に、人柱が立った。それはぐったりうなだれた『ミコ』に間違いない。
「馬鹿な奴だ、クジラも手を出さない『シビレクラゲ』の群れに飛び込むなんてな」
魚人がタイスケの腹を思いっきり蹴った。
「ウグッ……」
「ふん、仲間一人を人質にとっただけでこれだ、まったく人とは馬鹿だな」
『ダーマ』から半信半疑で聞いた言葉を魚人は言った。
「あいつを助けたければ、俺の言う通りにしろ」
後ろ手に縛られた『なっぴ』と『セイレ』が接岸用のゴムボートに乗せられ浜に向かう。それを見た魚人は、短剣を突きつけているマイに半ばあきれたように言った。
「なあ、いったいあの娘らは自分たちの命はいらんのかなぁ?」
「さあね、レムリアでもそうだったけど、命がいらないってことはないでしょう」
「そうか、そうだよな……」
そのやり取りを縛り上げられ『キャビン』に閉じ込められたタイスケとミーシャは静かに聞いていた。
浜にいたのは、黒サソリとはまったく色違いの赤いフードの衣装を着た男だった。
「ザラムはやられたようだが、この『ガラム』はそうはいかんぞ。さあ、『マンジュリカの玉』と『アクア・エメラルド』どちらから先に差し出すのだ」
「そんなものどうするの? あなたたちに使えると思っているの?」
なっぴが少し笑って言った。
「ふん、俺たちには使えない。それは『ダーマ』が『シュラ』のコマンドを書き変えるのに必要なものだ」
「『ダーマ』? 『シュラのコマンド』?」
なっぴにはセイレが何か思い出しそうに見えた。
「そう、でも残念ねそんな大切なものなら先に言ってくれなくちゃ。船に置いて来ちゃったわ(ちょっとふるい手だけど……)」
「そう言うと思った、お前たちから搾り取った方がいいな。そのあとゆっくり船を調べよう」
(やっぱり、引っかからないか。じゃあしょうがないか)
なっぴがまさに縄をほどこうと腕に力を入れた時、ガラムが『amato2』を見るように指差した。短剣をマイに突きつけている魚人が大げさに手を振った。
二本の人柱がミコの人柱の左右にほどなく立てられた。




