イノウエ
イノウエ
「実は、母はこうなることを感じていたの。『オロスの奥義』を使ったために漠然にだと思うけれど、『タケル』と『セイレ』をメイフ様と香奈に、一刻も早くアガルタから連れ出すように指示していた。シルラ王がなくなってすぐのことよ」
『ミーナ』は母が二人をどこに連れ出したのかは聞かされていなかった。『里奈』は『香奈』から『セイレ』についてだけは聞かせてもらっていたのだ。
「セイレはアコヤガイとともに『マナトの洞窟』に再び戻された。そして『クシナの力』を抜き取り人魚として育てたの。見分けがつかないようにね。そのミドリアコヤガイをトレジャーハンターに発見させたのはもちろんわざと。本当はそのまま『マナト』から地上にでも消えるように計画していたの。アコヤガイは地上でも数年は生きていける。でも『イノウエ』がそれを手に入れ元に戻したの。それがかえってよかったわ。アコヤガイが盗掘され、セイレのアコヤガイだけなくなっていた。と、ダーマたちが見てそう思ったの、イノウエはねミーシャ、この日のために『amato2』を作り備えていたの」
「そんなこと私には何も話してはくれなかった……」
「それはイノウエがあなたに『オロシアーナ』として目覚めて欲しくなかったからのよ」
「オロシアーナに目覚めて欲しくなかった?」
「彼は母親の顔を知らなかった。それを聞く前に父は北の海で亡くなったそうよ。それは『人魚の卵』が関係するのだと思っていた。祖父から預かったひからびた人魚の卵はいつのエスメラーダのものかは知れないけれど、その力はまだその中に少し残っていたのよ」
「それが父さんになにか伝えたのかしら?」
『イノウエ』から『父さん』へといつの間にか呼び方が変わったことに『ミーシャ』は気付かなかった。
「彼は研究室でそれを眺めては、私に人魚の誕生を楽しそうに語る。それはオロシアーナの伝承とはほとんど違っていたけどね、そんな彼に私は次第に惹かれた。一番良く話したのが、イノウエの若い頃、できたばかりの『amato』でミドリアコヤガイを深海の洞窟に戻した話。彼はそのことをずっと後悔していた」
「『あれは人魚の卵が狙われているというメッセージだったのだろう』、そう言っていた。彼はその時、古い『人魚の卵』の叫びがやっと聞こえたと言ったわ。わずかでも彼にそんなことができたのはね……」
「みんな、休憩は終わりだ、また何か起こりそうだ」
『タイスケ』が飛び込んで来た。セイレが起きると同時にまだ話し足りない二人の姿も一緒にかき消される。なっぴがデッキに立ち、行く手を見ると海面に巨大な渦、そして積乱雲が見えた。タイスケが慌てたのは無理もない。
「あの島へ向かいやり過ごそう」
タイスケが舵をいっぱいに左に切った。




