ヨミの花園
ヨミの花園
ホテルにはマイと色の白い少女が待っていた。なっぴは少女から『amato 2』についての説明を受けた。しかし気が気で無い彼女にはそれほど届いていない様だった。
「ところで、あんた聞いてる?」
とうとうミーシャが腹を立てた。考えたってしようがない、今はアガルタへ行く事が何より優先する。なっぴは頭を切り替えた。
「えっと、ミーシャ。ごめんなさい……」
「まあいいわ、二人を守って戦ってたんでしょう、それよりタイスケ、すぐに出るわよ」
レシーバのマイクを下げるとミーシャは出航準備のため、トレジャーボートに一人で残っているタイスケにそう言った。
「了解、妙な奴らが付けてきているからな」
彼はたった今、襲ってきた『フクロウナギ』を、もう一度蹴り飛ばし海に落とした。正気に返った『フクロウナギ』が悔し紛れに言った。
「俺をこんな目に会わせやがって、ギバ様は決しておまえたちを許さない」
「何度でも、来いよ。もっと歯ごたえのあるヤツがいいがな、あっはっは」
「ふふん『シュラ』を起動させた後でもそう言って笑えるかな?まあ、楽しみにしていろ」
海中に『フクロウナギ』が沈んだ。そのころ『ギリーバ』は再び王国に戻っていた。
『ギリーバ』がヨミの花園に着いた。次元の谷は跡形も無く消し飛んでいた。いや応無く彼は、ヨミの花園に戻るしか無かったのだ。
「ダゴスどのは?」
彼の問いに答えたのは、気丈なフローラの女王スカーレットだった。
「こちらです」
「おお、なんという事だ!」
腕の二本をもぎ取られたた『ダゴス』が棺に入れられていた。もちろん既に息はない。
「黒サソリは、倒した。だが、なっぴたちが戦おうとしているのはアガルタに逃れたラグナなのだ。今のままでは勝てない」
泣き崩れた由美子のそばで『ドモン』が『ダゴス』の言葉を『ギリーバ』に伝えた。『高速トビヤンマ』が慌ただしく王国内を飛び回り、王宮に王と巫女たちが集まるのに時間はかからなかった。
「ヨミ族の伝承によれば、寄り代を手にすればその力はあのヨミ、いやマナさえ越えると言うのか」
開け!次元の扉
『バイス』は既に王国一の王になっていた。
「レムリアでなら、なんとか勝機はある。しかし異界となれば話しは別だ。再び次元の谷によって切り離された今、異界のラグナを倒す事は容易ではない」
「マンジュリカーナに召還していただこうにも、アガルタに閉じ込められている」
そう言って悔しがったのは『ラクレス』だ。
「打つ手は無いのか、リンリン?」
スタッグがそろそろ出産を控えた『リンリン』に尋ねた。
「わたしたち虹色テントウの力だけでは無理ね……」
『リンリン』はそう言った。
「香奈が捕まっているなんて、なんとか私たちを召還出来る方法は無いかしら?」
『ラベンデュラ』はかつてリンリンを送還したことがあったが、それも香奈が異界にいてこそだった。
「ナノリアの巫女が力を合わせてもせいぜい一人を送還出来るくらいでしょう。私たちを導く『マナ』の力が無い以上、可能性は低いけれど、やってみましょう」
「ラベンデュラ様、一体誰を?」
テンテン、リンリン、由美子の三人はそれぞれ自分の名前が呼ばれるのを待った。
「お姉様その役目は……」
スカーレットがそう言いかけた。
「……その役目は由美子、あなたしかいません。ダゴスの仇討ちではありません、あなたに流れるヨミの血が、ラグナを倒す切り札になるかも知れないからです」
「頑張ってね由美子。さすがにこのお腹じゃあね」
リンリンがお腹をつっかえながら抱きついた。
「必ずなっぴと共にラグナを倒すわ」
テンテンはしかし、にっこりと笑った。
「はい、新しいコマンドスーツ。それからこれをなっぴに渡して」
それは赤く輝く原石だった。
「なっぴは必ず私を召還してくれる。由美子、それまでなっぴをお願いね」
「ええ、また会いましょう」
「さあ、送還を始めましょう!いまこそ開けっ、次元の扉よ……」
『ラベンデュラ』は知っていた、ナノリアの五大巫女の全ての術は、マンジュリカーナが残したマナの力による物だと。それを集めれば、『マンジュリカーナ』に匹敵すると、そしてそれが最大の『禁呪』であることさえも……。
「しかし、二度と巫女の力はあなたたちに戻っては来ません……」
マンジュリカーナの最後の言葉、それを知らないのは、三人の若い巫女だけだった。
虹の光と共にレムリアから青いアゲハが人間界へと飛び立つ。それを見届けると、五人の巫女が次々とうつ伏せに倒れていった。
それを見た各国の王がそばにかけよろうとしたとき、『テンテン』と『リンリン』が一喝した。
「うろたえるな、それが王の姿かっ!」
『デュランタ』『ゲンチアーナ』はそう言いながらも唇を噛んだ。
(必ず、行くからね。なっぴ、由美子……)
『テンテン』はそう心に言い聞かせた。
「ラグナはあと二体ある、しかも奴らが寄生しようと狙っているのは、アガルタのカイリュウ…あまりにも強大な敵だ」
キングの脳裏にはカイリュウの姿で暴れ回った、かつてのヨミの姿が甦った。




