ラグナ
ラグナ
たった数日で次元の谷は変わっていた。怪しい気配が溢れている。ふと見ると岩に腰掛けている人影がある。男はそれを見るとにやりと笑った。
「そうか、おまえもこの小娘に恨みがあったのだな」
振り返った虫人はこの次元の谷では最強だった虫人だ。
「おまえは、次元ミズスマシ」
なっぴは信じられない顔をしてそういった。
「久し振りだな、小娘。この前はやられたが、今度はそうはいかない。再びラグナの力で甦った俺様には叶うまいよ」
「ラグナ? 甦った?」
「クククッ、お前たちの再誕の術ではない。そんなものより格段に優れているのさ、ラグナ族は細胞ひとつに寄生し、元通り再構築出来る、ただし忠実なシモベとしてだがな」
コートを脱いだ男は真っ黒い身体のサソリ、黒サソリの『ザラム』だった。なっぴにそういうと、頭上に長い尾を巻き上げ鋭い針を曲げた。
だがなっびは、ひるまない。
「この次元の谷では、私たちにも助っ人が居るのよ。戦士『ギリーバ』召還!」
霧の中から『ギリーバ』が現れた。
「なるほど黒サソリか、やはりダゴスの言う通り、お前たちが動いているとはな」
「ヨミの戦いはまだ終わっていない。俺たちは負けてはいない。この日を待っていたのだ」
『侍アブ』の前に進み出たのは『ミコ』だった。
「なっぴ、こいつは俺が引き受けよう。『セイレ』を守りながら戦えるか?」
なっぴは虹のブローチ、そしてテントウを見た。しかしその輝きはなっぴの虹色テントウに比べると随分弱い。しかし彼女はにっこり笑って答えた。
「やるっきゃないでしょう」
侍アブの針が続けざまに吹き付けられた。ミコは近づく事すら容易ではない。なんとか岩陰を利用して侍アブに近づくと赤い頭上のヒレを抜き取ると、『ソード』に変形させた。
「リュウグウノツカイ、ミコ。行くぞアブのムシビト」
「侍アブ、魚人などに負けると思うかっ」
彼は、得意の居合いの間合いをとった。あのピッカーでさえ一目置いた侍アブの居合いだ。勝負は一瞬で決まる、いつまで気迫が続くかだった。次元ミズスマシは次元の壁の中に沈むと不意に襲ってくる。なっぴはそれを交わすのに精一杯だった。その時『セイレ』がまた気を失った。
なっぴには今度は、はっきりと『セイレ』の身体から緑の真珠玉が抜け出し、ブローチに入り込むところを見た。母に似た横顔が笑った。
「バイオレット・キューを使いなさい。私の力を貸しましょう」
彼女はうなずくと「セイレ」を岩陰に座らせた。そして七色テントウに手をかざす。
「いくわよ、バイオレット・キュー」
なっぴも高校生、いざというときのために『護身術』を習っていた。タイスケは道場での稽古の後、よくそれをからかった。
「おまえなんか襲うような命知らずがいるもんか、殺されちゃうな、きっと」
なっぴは、一点を見ていた。次元の谷に流れ込んだ風がわずかに動いた。なっぴは声を上げた。
「そこね、次元ミズスマシ!」
彼女のキューはしかし空を切る。
「バカめ、何処を狙っている」
背後からなっぴは簡単に『次元ミズスマシ』に『羽交い締め』にされた。なっぴはそれを待っていた。
体重を預けて彼女は両膝を胸に付けた。
「えいっ!」
「ぐっ」
「たあっ!」
「ぐへっ」
体重を乗せて次元ミズスマシの足の甲にまずかかとが踏み降ろされた。たまらずかがみ込むところを一本背負いでなっぴは投げ飛ばした。背中を打ちつけられた次元ミズスマシはそれでもヨロヨロと立ち上がった。
「ど、何処だ……」
彼が見失ったなっぴのかけ声が、すぐ後ろから響く。
「打ち抜けレインボーショット!」
背中のマルマを打ち抜かれた次元ミズスマシはその場に倒れた。
キューの先には紡錘型の身体に赤紫色の触手を無数に持つ『ラグナ』がもがいていたが、動きを止めると見る間にひからびていった。
一方侍アブの刀をギリーバは警戒していた。
「一瞬の太刀筋を止めた瞬間が、勝機」
ギリーバはヨミの戦士の中でもクモ族と同じで武器は使わない。かつてナノリアの王『キング』の巨大な角さえ噛み切った強力な牙がある。身体は堅い鎧に覆われてる、さらにガラスのような面でも垂直に上れる吸盤つきの脚まで持つのだ。王国の戦士として最強であることは疑いも無かった。
次第に間合いがつまっていく。次元ミズスマシが倒されたのを見ても、『侍アブ』は動揺しなかった。落ち着いてこの相手を一刀で仕留めようと気迫を込めていた。動きがあったのは今度は『侍アブ』の方だ。抜刀はおとりだった、袈裟がけで切るのが侍アブの作戦だった。抜刀を紙一重でギリーバが避けた。真上から二の太刀が襲った。
「ムン」
ギリーバはその刀を両手で受け止めた。そして強力無比の牙でそれを折った。そして左右の触覚が侍アブの後頭部にある『ラグナ』を一瞬でえぐりとった。
「さすがにピッカーが一目置くヤツだ」
触覚の先の『ラグナ』もまもなく消滅した。




