ダーマ
ダーマ
「お見受けしたところ、あなたはカイリュウ族、われらヨミ族の次に古い生命体でありますな。私はヨミ族の戦士『ダーマ』と申すもの。奴を待つまでもない、『シュラ』の事は私がお話しいたしましょう」
黒いフードをかぶった戦士はその奥の巨大な眼を光らせて言った。
「おまえが? あの『シュラ』について知っていると言うのか」
「その前に、お願いがあります。残りの石棺に手向けの花を入れてやりたいのですが」
ダーマはいつの間にか手に黒いユリを持っていた。ギバハチは石の蓋を再び開けた。その中にユリを投げ入れるとダーマはこう祈った。
(さあ、永い眠りから再び目覚めようぞ、黒サソリ、赤ムカデ、そして縛りグモよ……)
不思議な事に投げ入れられた黒ユリは一瞬でからからに乾き粉々に砕け落ちた。そしてギバハチが見つけた奇妙なモノがその触手を振るわせた。谷の岩の下から這い出てきたサソリとムカデがその奇妙な、まるで根っ子の様なモノに吸い付かれた。悶え苦しむサソリとムカデはやがて動かなくなった。
「彼らは私と共にこの谷に捨てられたヨミ族、きっと役に立ちましょう」
それぞれの石棺の土塊がやがて人型に集まり起き上がった。
「カイリュウ族のあなた様のお名前は?」
落ち着き払い彼に尋ねるダーマに、ギバハチは名乗った。
「わしは、カイリュウ族の生き残り『ギバハチ』。さあ『シュラ』の事を話せ、ダーマ」
「シュラは虫人の科学者『カグマ』が創った『機械昆虫人』と言うものです。書き込まれたコマンドに従い、人工知能で対処し目的を遂行する。三体創られて、宇宙に放たれました。それは虫人が住める移住先を探すためだったのです。彼らの星が非常に不安定で、移住先を見つけるには一刻を争うという事にいち早く気付いた『カグマ』の独断だったのです」
ギバは黙って聞き続けた。
「そのコマンドとは、惑星探査をし、他の知的生命体がいた場合速やかに『排除・殲滅せよ』というものだったのです」
「うむ、ではシュラが送られた惑星に住む知的生命体は全て殲滅する運命だったのか」
「最初はそうでした。しかしシュラの一体が破壊され、虫人の国に警告が伝わりました。そのため急きょ『カグマ』に回収された一体のシュラは、すぐにコマンドを書き換えられたのです。しかし……」
「しかし?」
「この星に向かったシュラは塩水により、防御システムが働き、休眠を続けていたのです。シュラの一体がこの星に来ていることを『カグマ』はまだ知らないのです。『この星の知的生命体を殲滅せよ』と言うコマンドが今でも生きていると言う事も」
「わしのカイリュウの力でも叶わぬのか」
「はい、シュラを破壊した星の話しには、続きがあったのです」
壊滅した星
「一度、詫びにいかねばなりません、サクヤ」
「はい、しかしシュラは破壊されてはいません。きっと……」
カグマは応えなかった。もちろん言われるまでもない、そのために『シュラ三号』のコマンドを書き変えると、カグマはまず真っ先にこの辺境の惑星に向かったのだ。
「真っ赤に焼き尽くされた大地、シュラはやはり破壊されてはいなかったのか」
カグマの星間航行船が大地に降りた。既に生命反応の消えかかった生きものが念波を飛ばしてきた。あの『警告の第一報』と同じ波長だ、この星のオサに違いない。
「おまえはあの虫人の星のものか、まったく恐るべき科学力。あいつは何という」
「シュラ」
「それは?」
ひからびた根っ子の様な生命体は、カグマのそばのインセクトロイドの名を尋ねた。
「名は『サクヤ』あなたからの念波を受け、シュラのコマンドを変更した、インセクトロイドです」
「そうか、あいつと同じ力を持つのか」
「はい、何度も自己再生出来る能力も持っています」
「わしの息子がおればシュラなど……、いや、かえって良かったのかも知れない。フフフッ、あいつは俺たちを根絶やしにしてくれたぞ。その仇討ちはちゃんとしてくれるか? 虫人の科学者よ」
カグマがそれに応える前に、その生命反応はついに消えた。
「『ラグナ』それがその種族の名前、この星からもラグナの星が燃えるのが見えたと言い伝えられています。何故それを知っているかと言うお顔をされておいでですね、ギバハチいやアガルタの『ギバ』様とお呼びいたしましょうか。実はこの星にラグナの生き残りがいたのです。そしてヨミ族にとって深い関わりを持っていたのです」
そのシュラのマユがついに洞窟の中に運ばれることになった。いくら休眠していると言ってもそのまま海底に放置はできないという理由と『シルラ』自身、その未知のものに興味があったのだ。ついに『シュラ』は『アガルタ』で再起動した。
「『ギバハチ』がいうほどのことでもない。ほら、何もおこりはしない……」
掘り出した『赤いマユ』はさほど大きいものではなく、人魚の半分ほどのものだ。そのマユの中に何かが、かがみ込んでいた。それを見た王は少し驚いた。
「何と、『シュラ』とは人型をしているのか」
『シルラ』が見たものは精巧にできた人型のものだった。その顔にはムシビトのような複眼と小型だが鋭いあごが一対あった。体は弾力のありそうな緑色の皮膚で覆われている。蜂のような体つきは、もし性別があるならメスではないだろうかと彼が思ったのも無理は無かった。次に、彼はぞっとする機械音声を聞いた。
「……太陽系第三番惑星、探査ヲ開始。生命体カクニン、スキャン完了、コレヨリ殲滅ヲ開始スル……」
『シュラ』の圧倒的な力に『シルラ』は歯が立たなかった。手足をもぎ取ろうとも『シュラ』はたちまち再生する。そしてカイリュウの王は自らの軽卒な行動をその命によって償った。
「この洞窟とともに再び永遠の眠りを与えよう、恐るべき『シュラ』」
崩れ落ちる天井から海水が『シルラ』と『シュラ』を飲み込んでいく。その一部始終を『ギバハチ』ともう一人の影がじっと見つめていた。
「あの日から、わしは『ギバ』としてアガルタを守ろうと思った。カイリュウの力程度ではとうてい叶わない。『シュラ』のコマンドを書き換えるしか方法はない。そのためには唯一『マンジュリカーナ』の力を捧げるしかないと『ダーマ』に聞かされた。女王の妹『万寿香奈』がその犠牲になるのは、虫人が送り込んだ『シュラ』を破壊するためだ。因果だが、それは仕方のないことではないか」
その後『香奈』をおびき出すための計画は、ダーマが練った。ギバハチはやがて『マオの洞窟』に入り、その日からもう二度とアガルタのメイフを訪ねる事はなかった。




