第二章 ギバ
第二章 ギバ
「グルルルッ、また古傷が痛む。忘れもしない『マンジュリカーナ』との戦い…、その末裔が再びわしの前に立ちはだかるのか」
深海で人魚のもりに、喉の奥を突き破られ、水圧で押し潰れながら海底に沈んでゆく『ギバハチ』を、背中に大きな傷のある、マッコウクジラがひとのみにした。なんという偶然だろうか、そのため彼は『カイリュウ』族に与えられた『再誕の力』を抜かれることを免れた。彼は『なっぴ』たちが、深海探査艇を手に入れたという報告を受け、少し感傷に浸った。
「すでに当時の生き残りは『メイフ』だけになった。まるで『マオ』のように…。違うのは当たり前に歳をとり、そして死んでいく…。あの偉大な『メイフ』でさえ、今のわしから見ればすでに一人の『老いぼれ』にすぎぬ」
マナトの人魚の玉座の前で、ギバは立ちすくんでいた。玉座に座り、歴代のエスメラーダの記憶を読み取るのには、人魚でない彼には、『マナの力』を使うしか無い。そのため彼は『香奈』がなっぴのもとに残した『マンジュリカの玉』を手に入れようとしていた。『ダーマ』の『進言』を信じていたのだった。
「わしが再びカイリュウ族を再興する。そのために『シュラ』を起動させる。『地上の知的生命体を殲滅せよ』とその使命を変えて」
彼はそう言い残し、『マオ』の洞窟へ向かった。その姿が消えると、入れ替わりに『ダーマ』が三人の従者を連れて現れた。
「あれがカイリュウの生き残り、オルカの『ギバ』か、あんな奴の配下になっているのかお前ともあろうものが」
赤い大ムカデの虫人が腕を組みそう言った。
「これでいい、レムリアの虫けらどもを皆殺しにするにはまず『シュラ』を手に入れねばならない。我々の目的は『セイレ』の持つ『アクア・エメラルド』。ふふふっ、やつには『セイレ』はもう死んでいると伝えてある」
「ところで『ダーマ』、ヨミ族を呼び寄せたあの女は何者だ」
「その王座に埋め込まれた『マンジュリカーナ』の娘。次元を越えた後、巫女の力を失った愚かな奴だ。黒サソリよ」
「おい、『ダーマ』おまえのように、新しい名で呼んでくれ。ヨミ族にやられたいまいましい古い記憶が甦るからな」
黒いサソリの虫人は苦笑いをした。
「はははっそうだな、黒サソリ『ザラム』、赤ムカデ『ガラム』そして操りグモ『ゴラム』これでいいか」
「ところで、あの魚人は武器も無しでなかなかやるな。ミコか、覚えておこう」
赤ムカデの『ガラム』は『ミコ』のタフな身体と繰り出す拳の破壊力をたたえた。
「海の底も飽きてきたところだ。わしが行ってこよう、『ダーマ』ふふっ『アクア・エメラルド』を楽しみにしていろ」
『ザラム』が煙のように次元を越えていった。それを見て『ダーマ』はつぶやいた。
「どうやら深海探査艇をもうひとつ隠し持っていたらしい。『イノウエ』とかいったな、人間界にも侮れない奴がいるという事だな」
タケル
マッコウクジラに飲み込まれ、奇跡的に生きのびた『ギバハチ』はやがて傷の回復したひれを精一杯振り下ろし、アガルタに戻ってきた。まだ体は完全に回復してはいなかった。
「タケル、そろそろ『マナト』へ行く時間だぞ」
早く娘に会いたい気持ちでいっぱいのアガルタの王『シルラ』は剣の立ち会いの練習中の息子に催促をした。
「父殿か、あとひと勝負、待ってください」
父にそう言うと若い王子は剣をもう一度握り、祖父に向かった。
「はははっ『シルラ』すぐに終わるさ、さあかかって来いタケル」
王子の打ち込んだ剣は、祖父の『メイフ』に一瞬ではねとばされた。
「さあ父殿が待っているぞ、行った、行った」
若い王子を送り出し、彼は一息ついた。
「さすがは『メイフ』様、まだまだするどい太刀筋は変わりませんな」
その声に彼は聞き覚えがあった。声の主『ギバハチ』が稽古場にしている洞窟に入って来た。『メイフ』はカイリュウの力を残したままの『ギバハチ』に会うのが楽しみになっていた。彼の用件は、深い断層で見つけた『それ』のことだった。
『里香』に倒され沈んでゆく『ギバハチ』を飲み込んだのは、一頭のマッコウクジラだった。そしてそのままその深い断層を潜っていったのだ。彼はクジラの中で竜化した。クジラは苦し紛れにその断層でのたうち回った。その腹を裂き、海中に出てきた彼はクジラのヒレで削られた新しい亀裂の中に休眠したままの『それ』を偶然発見した。彼は深い傷を負っていた、傷もやっと回復し、『メイフ』に会えるまで彼にはまだ数十年必要だった。
そして彼はメイフにやっと会えた。
「王よ、何故老いていらっしゃるのだ。それに『カルナ』様もここにはいらっしゃらない。『カイリュウ』はあの戦いに敗れたのか?」
彼はかつての主の前で悔し涙を流した。
「いや『ギバハチ』そうでは無い。『カルナ』は再誕し、わしの妃となり、『シルラ』を産んだ。成長したシルラは『シラト』の娘『里奈』を妃とし、王子『タケル』を産んだ。そして先日待ち望んだ『人魚』がついにマナトに産まれた。『カイリュウ』の力を無くしてしまったわしたちはひとり、またひとりと死んでいったが、その命は今も続いている。
「わしは、これでよかったと思っている」
「これで、よかったと……」
「ああ、これからはおまえがアガルタの新しい『マオ』様になってくれ。最後のカイリュウ、『ギバハチ』よろしく頼むぞ」
「承知いたしました、ところで『シルラ』様はどちらに向かわれたのですか?」
彼は新国王の居場所を『メイフ』に尋ねた。
「タケルと連れ立って『マナト』へ向かった。おまえも会いにいってみればいい。まだ泳ぎも出来ない人魚だがな。」
彼は、『メイフ』をじっと見つめた。そして心の中でつぶやいた。
(『マオ』様になれか、この俺に……)
彼はこの老いたカイリュウの姿を、もう一度その両目に焼き付けた。




