海底水族館
海底水族館
「おのれっ、レムリアの虫人どもまでわしの邪魔をしおって。覚えていろ、真っ先に『シュラ』を送り込んでやる……」
ダーマから一部始終を聞くと、ギバは怒りをあらわにした。その様子を見て、真珠玉の中に閉じ込められた香奈はくすりと笑った。しかしすぐ不安げな顔に戻った。
(なっぴ、決して焦ってはいけません。あなたが正しき心でいなければ、マナの力は集まらない。今度の敵は『シュラ』だけでは無いのです。あなた自身と戦うことになるかもしれないのです……)
戦いが終わり、美沙は二人を連れ出した。
「いいものを二人に、見せてあげる」
マイの手を引いて美沙は屋敷の地下へと降りていった。
「こんなところに海底水族館があるなんて!」
マイが驚くのも無理はない。研究所の地下トンネルは透明な通路に繋がっていて、上下左右を極彩色の魚が群れている。それを進むと小さな部屋に入った。天井から七色の光が注ぎ海底を照らしていた。その光に映し出されるのは、海底珊瑚と熱帯魚たちだった。
「こんなモノに一生懸命になって」
そう言いながら、美沙は寂しげだった。
「タイスケには親戚の娘を引き取ったと『イノウエ』は嘘をついていたのよ、わたしは実の娘。アカデミアの前身、国際海洋大学の学生だった母は、産まれて間もないわたしを連れて北極圏の村、オロスに戻ったの。そして奴らが現れた、気がつくと私はたった一人になっていた。もっと早く『イノウエ』がオロスに来ていたらそんなことも無かったかもしれない。家族より研究の方が大切だった、それがあの『イノウエ』なのよ……」
思い出したようにタイスケが言った。
「『シーラカンス』と『シーラ2』が何者かに破壊された。奴らに違いない、アガルタに俺たちを行かせないためだ。『シーラ2』でなっぴたちと深海を潜るつもりだったのに」
美沙が彼に聞いた。
「なっぴと言うのがもう一人の王女なのね。再誕の呪文を使えるという」
「そう、あなたのお父さんを救えるのは、なっぴだけなのよ」
「言っとくけど、認めてないし。その王女にちょっと興味があるだけだし……」
くすりと笑ったマイはタイスケに言った。
「とにかく、『青いかもめ』に行って、緑の宝玉をなっぴに渡さなきゃあね。そうだタイスケの探し物って何だったの?」
彼は一冊のノートを見せた。それはあの論文のための教授の資料メモだ。
「これにある、ミドリアコヤガイの水圧実験のデータが欲しかったんだ。新しい耐圧殻の開発にどうしてもね」
美沙は吹き出した。
「ふふふっ、タイスケも同じ事を言うのね『イノウエ』も『シーラ2』ではだめだと新しい耐圧殻の開発を進めていたわ、二万メートルも耐えられれば十分なのに。宇宙ロケットでも作るつもりだったのかしらねえ?」
「教授も研究されていたのか、このノートをお借りしてもいいだろうか?」
美沙は水族館のソファに腰掛けた。
「いいって、それもう要らないから」
「要らない?」
「そう、もう開発していたの『シーラ2』を越える深海探索艇をね」
二人は目を見合わせた。美沙は少し得意そうだった。
amato 2
「おかげであれほどあった財産はすっかり底をついたけどね。『イノウエ』は笑って私に言った。これで『人魚』に会えるって……」
「美沙、その深海探索艇を僕たちに貸してもらえないか?」
「いいわよ、でも条件があるわ」
「レンタル料は出来るだけの事はする、将来は金持ちになってるかも知れないし」
「バカねえ、お金なんて貰ったら、わたし『イノウエ』に追い出されるじゃない」
「じゃあ美沙、条件て何だよ?」
「まず、ひとつめ。わたしはミーシャですから、今後そう呼ぶ事。ふたつめ、わたしをクルーに加える事。そして全員が生きて戻る事。それが約束出来ればね」
「もちろん、ミーシャ!」
二人とも同時に叫んだ。
教授が若い頃に七つの海の深海に潜った、有人定員三名の『amato』は大幅に改良されていた。葉巻型の深海探査艇がまるで卵を貫いている様な形だった。海底水族館と繋がっていた部屋が実は『amato 2』の船底だと知った時、二人はこの探査艇がいかに薄く丈夫な耐圧殻を備えているかを知ったのである。それだけではなく船底には第二のコクピットとして船体を制御するコンピューターと酸素発生装置の制御モニターが装備されていた。
「この『amato 2』はね、一万メートルまでは液体燃料タンクの燃料でタービンエンジンを使うの、酸素発生装置から取り出した酸素を使ってね。使い切ったらそこで後部は切り離すの、そして前部の電源を使ってモーター・スクリューで超深海のさらに深くまで潜る。そして探査が終わるとそれも切り話し、新耐圧殻で出来た球体だけになってゆっくりと浮上するってわけ。もちろんこの耐圧殻は水爆でも壊れないし、浮上するまでの間の酸素発生装置もあるわ。だからこんなに大きいけれど定員は四名。まあほとんどが推進エンジンだから仕方ないわね。さあ、『青いかもめ』へ向かいましょう」
操縦については、ミーシャが教授から習っていた。その手際の良さに感心しながら、マイはこう思っていた。
「教授は随分前から、アガルタの人魚の事を知っていたのね、一度限りの潜水のためにこんな船を用意していたなんて……」
トレジャーボートに積み込まれる『amato 2』を三人が見つめた。その新耐圧殻に覆われた球形のコクピットには外国の青い文字が書かれていた。タイスケもマイにも読めはしない、きっとオロスの言葉だ。
「愛しのミーナ……、父さんたら」
ミーシャはそう言うと少し涙ぐんだ。
「ボートの操縦はタイスケの役目よ。マイ、『青いかもめ』に着くまで、なっぴたちの話しをわたしに詳しく聞かせて」
その一部始終を新月の海面からじっとみていた影が動いた。
「うむ、まずいことになった。オロスの巫女の娘がこんなところにいたとは、おまけに深海探査艇を既にあの男が作っていたとは」
巨大な口の『フクロウナギ』の魚人が海中に沈んだ。
なっぴの昆虫王国 『シュラ編』第一章 了2016.9.7
第二章の前に
さて、香奈が『シュラ』を再起動する為にマナトに封印されていることをなっぴはまだ知りません。ギバハチがギバと名乗り、再び地球を『カイリュウ』の星にしようとしたのには、あるきっかけがありました。
また、セイレの母は香奈の姉『里奈』だったのです。『セイレ』の誕生に『香奈は』深く関わっているようです。また香奈の言う「なっぴが自分自身と戦う」、とはいったいどういことなのでしょうか?
『シュラ編』第二章は『ギバハチ』と『ダーマ』の出会いからはじまります。
『amato 2』に乗り込み、『青いかもめ』を目指す三人にはこのままもう少し航海を続けていただきましょう。




