レムリアの戦士
レムリアの戦士
「おまえ『レムリアの王女』だと言ったな。ならば容赦はしない、ヨミ族の国を盗んだ虫人どもは皆殺しにしてやる」
蟹人はそう言うと、左右の巨大なハサミを振り回した。『マイ』はそれをひらりと交わすと、自身の中にあるコマンドを唱えた。
「召還、レムリアの戦士。われと共に戦え」
緑色の光が目の前に現れた。戦士は巨大な『サイス』を握り緑の身体を震わせた。
「久し振りに、暴れていいんだろ? 修行中の王女様」
なっぴの真似をして、彼女は命じた。
「そうね『ガマギュラス』存分に暴れなさい」
「虫人に何が出来る、そんなカマなど、まっぷたつだ」
蟹人は巨大なカマの柄を狙った。
「ガキッ」
しかしその柄はびくともしない。
「挟むと言うより、つまむだな。かなり錆びているのじゃないか?」
彼のサイスが風と共にハサミを切り裂いた。
「グエッ、俺の右手が……」
蟹人は大げさに転げ回った。サイスを大きく振り上げたガマギュラスが後を追う。
「ふん、こっちもだ」
もう片方のハサミも切断された。そして肩から袈裟がけにサイスを打ち込んだ。しかしその一撃は、はじかれた。蟹人はあざ笑った。
「わしの甲羅はどんな攻撃もはね返す、おまけに、ハサミはさらに堅く再生する。これが『カイリュウ』の力だ」
「ふん、『ピッカー』の言った通りだ。俺たちはお前たちを倒さねばならない、ヨミ族として。お前のマルマを切り裂いてな」
「骨まで溶けろ、カマキリ野郎!」
強酸の泡が蟹人の口から吐き出された。
『ガマギュラス』は身体の全面で『サイス』を回転させその風でシャボン玉を飛ばすようにその泡を吹き飛ばした。
「マルマを嗅ぎ分けられるのはヨミ族の能力さ、相手が悪かったな蟹人、そこだ!」
サイスが『ヨロイガニ』の後頭部に深く突き刺さった。
「バブルルギルルーン。またしても……」
寄生していたマルマがサイスの先で活動を止めた、三人が初めて見た生命体だった。
ヨミ族
「ヨミ族とは、かつてはフローラ国の入り口にある『ヨミの花園』に住む古い虫人たちの総称だった。節足動物、多足類、肉食昆虫たちの集まる花園には『レムリア』が着陸する以前に大きな戦いがあった。その覇権争いに敗れたのは、『赤ムカデ』『黒サソリ』『操りグモ』だった。その戦いを制したのはクモ族、ハチ族そしてカマキリ族をまとめたオニグモ、ダゴスの租であった。キュラウエラはヨミ族の闘神として首長がその力を使う事が出来る」
『ガマギュラス』はマイにそう告げた。
「この星の初期に産まれた生命体『ラグナ・マルマ』は、寄生すると、その寄り代の能力を高める。ヨミ族の覇権争いは、より強い『ラグナ』を求め、同族の分裂を引き起こし、そしてやがてヨミ族同士の殺戮となった。その戦いを集結させたのが『キュラウエラ』をまとったクモ族の首長だった」
マイは以前『ダゴス』によってその一命をとりとめた。その力は、レムリアの力ではない。彼女は女王がダゴスを信頼しているのは、この星の古い虫人だと言うことを知っていたからだと思った。
「何故、ヨロイガニはレムリアの虫人をあれほど恨んでいるのかしら?」
ギリーバは答えた。
「リカーナの第二王女、アロマ様が次元の谷を封印してしまったからだ。いやそれはアロマ様は知らなかった。『キュラウエラ』に敗れた『赤ムカデ』『黒サソリ』『操りグモ』はマルマを寄生したまま、『乾きの谷』と呼ばれていた王国の果てに落ち延び、再起を伺っていた。ヨミ族がレムリアの虫人を王国に迎えた時、人間界との次元の境目をさらに強固にしたのがアロマ様の力だったのだ。まあ、そのためアロマ様の血をひく、ラベンデュラ、スカーレット、バイオレットの三姉妹には次元を越える力が備わっているのだがな。そして三人の戦士は『乾きの谷』ごと次元の狭間に封印されてしまったのさ…」
「もしかして、なっぴがシンクロさせてしまったから……」
マイがそう言った。しかし『ガマギュラス』は首を横に振った。
「いや、次元の谷がシンクロしたためにあいつらが動き出したのではない。ダゴスが首長になった時、奴らを許し、再びヨミ族に迎えようとして谷に行った。ところが、すでに三体の身体を食い破り、ラグナは消えていた。こんなところで再び会えるとは俺も思わなかったが……」
「でもおかげで助かったわ、あと二体残っているけどね」
マイに再びガマギュラスは首を横に振った。
「いや、こいつはラグナの幼体だ。成体はこんなモノじゃない……」
「……」
「敵がマルマの力を引き出そうとしているなら、そいつはおそらく最大の敵になる。まさかとてつもない寄り代を手に入れようとしているのか……」
「心当たりがあるの、ガマギュラス?」
「いや、一度ダゴスに相談しよう。相当昔の事だから俺にはわからない。ただ気をつけろ、王女には戦う術が無いのだからな」
ふと、彼は緑の真珠を見つめたままの美沙を見た。そして軽く笑って言った。
「大丈夫、王女様の封印は完璧だ。蟹人の毒の進行は止まった。もう一人の王女に回復の呪文を唱えてもらえばいい。彼は?」
「タイスケ、なっぴの同級生。それに彼女は美沙、『イノウエ教授』の娘さん」
「ミーシャだし、それに父と認めてないし」
彼女は膨れっ面で応えた。
「はははっ、なっぴと気が合いそうだな、ああそろそろ時間だ。さすがにレムリアからの転送には、限界がある。巫女も呪力をかなり使うらしい」
緑の宝玉をマイに渡すと、彼は三人にこう言い残し、レムリアに戻った。
「この宝玉をなっぴに渡してくれ、そしてこう伝えてくれ、焦ってはだめだ。今度の敵はこの星の先住民、最強の相手だと」
『ガマギュラス』はそして次元の狭間に吸い込まれていった。




