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なっぴの昆虫王国 シュラ編  作者: 黒瀬新吉
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イノウエ

イノウエ


「そうか『ムラサキホシエソ』が失敗したのか。人魚姫よりも、まずなっぴとかいうあの小娘、そっちを片付けるのが先だな」

ギバはダーマの報告を聞くと腕組みをしてそうつぶやいた。

「別の仲間は『イノウエ』に会うために広島に向かっております」

「ああ、あの男のところへか、ちょうど良い。あの男共々始末させろ、ダーマ」

「承知いたしました、すぐに鬼面ガニに伝えましょう」

「それから邪魔な『シーラカンス』と『シーラ2』は念のため、破壊しておくのだ」

「既に手筈は整えております、ご心配には及びません、ギバ様」

「この深海まで新たに人間が現れることは無い、『香奈』お前で最後だ。もうしばらくしたら地上に戻してやる。『シュラ』の体でな、フフフフッ」


西に向かう新幹線の中で、二人は二隻の深海探索船が何者かに爆破されたというニュースを聞いた。


「これじゃあ、アガルタにはいけないじゃないの、どうしよう、タイスケ」

「教授なら、何かいい方法を教えてもらえるかも知れない。マイ、とりあえず約束の時間までは出来る限り情報を集めよう」

「そうね、それしか無いわね」

「しばらく眠れ、俺が起きている」

「結構頼りになるね、なっぴに推薦しといてあげる」

「余計なことしなくていいから、寝ろ」

「はあーい」


乗り継いだ電車からしばらく歩くと、フェリー乗り場だ。タイスケは誰かの視線を感じた。しかし素知らぬ振りでちょうど出向するフェリーに飛び乗った。そっとその後から怪しい影も乗り込んだ。十分もしないうちに右手に赤い鳥居が見えた。


「マイ、いいかそっと俺について来い」

小声でタイスケが彼女の耳元でささやいた。

人ごみをかき分け真っ先に船から降りると、二人は猛烈に駆け出した。それを追い、人影が動く。

「やはりあいつらか、下手な尾行だ。ほらお迎えがきたぞ」

白い軽トラックの荷台に二人は飛び乗った。

「美沙、助かった。お宅まで歩くのは辛いからな、それに」

トラックのバックミラーに黒いサングラスをかけた数人の男が写った。

「タイスケ、あいつらは近頃よく見かけるわ、『イノウエ』はあなたを待っていた。あなたに渡したい物があるって」

美沙は運転席のウインドゥを閉じるとブロンドの長い髪を整えた。

「まったく、この国は熱くて仕方ないわ……」


元『日本アカデミア』の教授『イノウエ』は『深海の人魚』と題した論文を発表したため学会を追われた。教授の最後の研究生として、タイスケは週末に一緒に研究をしていた。美沙は教授の遠縁の娘で、両親が亡くなり教授がひきとり養女にした。彼とは同い年だがなっぴもマイも彼女と面識は無かった。教授はこの瀬戸内の島の南側、観光客もほとんど来ない岬に住んでいた。若い頃『トレジャーハンター』として集めた資金は深海の生物の研究のためにほとんどを注ぎ込んでいた。島の水族館の『館長』としてもらう給与で、その生活を支えている。


夕刻を過ぎ、既に辺りは暗くなっていた。

「タイスケ、よくきた。その子は?」

「黒崎マイ、青葉一高の二年です」

「そうか、美沙。自己紹介しなさい」

さっきの娘が教授のそばに来た。


「わたしはMisia (ミーシャ)、日本式で呼ばないでって言ってるでしょ!、引き取ってもらったってわたしは嬉しくない」

「……」

気まずい沈黙はペアガラスの割れる音で破られた。

「パリーン」

それと同時に電源が落とされ、非常用の赤い電球の中、黒い影が部屋に踏み込んできた。

「これを使え、タイスケ」

教授は古いもりをひとつ彼に投げた。もりを構えた二人は背中合わせになり、その影に対峙した。マイは戦う術も無い、後ずさりを始めた。その前に進み出たのは三つ又のもりを持つ美沙だった。電源が復旧し、奇怪な曲者はその姿をさらした。鎧の様に堅い甲羅に覆われた蟹人だ。あぶくを出しながらその口が、開いた。


ギザーザ


「バブルル、我は『ヨロイガニ』の『ギザーザ』、お前たちはギバ様の邪魔になる、ここで抹殺する。そっちは任せたぞ鬼面ガニ」

背中に一対の棘を生やした『ヘイケガニ』に似た、蟹人がタイスケたちに襲いかかった。

タイスケはもりの柄をしごくと、蟹人のハサミをはじいた。とどめの一撃を打ち込もうとした時に、鬼面ガニは白い泡を吹きつけた。

「こいつ、何しやがる!」


挿絵(By みてみん)


「ううっ」

彼が避けた泡が、背中合わせの教授の背にかかった。教授の服が酸で解け、肌を焦がした。

次を発射する前に蟹人の胸はタイスケのもりに突き抜かれ、串刺しになった。そのもりを抜き、もう一人の蟹人に向き直った彼に巨大なハサミが襲ってきた。

「首を切り落としてやろう…」

そのハサミが切り落としたのは、もりの柄だった。彼は役に立たなくなったそれを放り投げると、教授を抱き起こした。


「教授、しっかりしてください」

気を失った教授をかばいながら、教授のもりを持ち、蟹人に対峙するタイスケを見て『ヨロイガニ』は笑った。

「その酸は骨を溶かし尽くすまで、深く浸透していく。『イノウエ』、おまえが死ぬ前に教えてやろう。人魚についての論文は的を得ていた、あれを認めてしまうと都合が悪くてな、我々の手の者を使い、学会から永遠に葬り去ったのさ、おまえもあの論文も一緒に」


美沙が口を開いた。

「そんな事くらい、父はとうに知っていた。

お前たちの悪企みこそが、論文が真実だと言う証拠だといって、この島に戻ってきたのよ。わたしの母を殺したのもお前たちだろう」

「おまえの?」

「ああ、『ミナ・オロシアーナ』。覚えているだろう、この蟹人めっ!」

三つ又のもりが『ヨロイガニ』の腹に突き刺さった。それを引き抜き、蟹人は笑う。

「バブロロン、効かないなこんなもりなど。期待に添えないがお前の言う『ミナ』を殺したのは、俺たち魚人ではない。『ダーマ親衛隊』の仕事だろう。俺たちは『エスメラーダ』の抹殺が仕事なのさ、そらっ!」

投げ返したもりが、美沙を狙って飛んだ。


「美沙、危ない!」

もりを肩にうけ、『イノウエ』が倒れた。

「死に損ないが、まだ動けるのか? 戻れっ、鬼面ガニ」

二つの黒い塊に戻った、鬼面ガニは『ヨロイガニ』に吸収され、蟹人は巨大なハサミを開いた。

「美沙どいて、一刻を争うわ」

抱き起こされた教授の前に『マイ』が進み出た。蟹人と戦う術を彼女は知らない。ただひとつレムリアの女王から受け継いだのは、封印の術。彼女はそれを『イノウエ』に使った。


「レクトノール、イノウエ、レムリアーナ」

緑の真珠に封じられた教授は仮死状態となり、美沙の手のひらに収まった。なにより驚いたのはそれを握りしめた美沙だった。


「いったいあなたは何者なの?」

「まだ修行中の『レムリアの王女』、今はこの術しか使えないの」

そう『マイ』が応えたとき、『ラベンデュラ』の念波が遠い『レムリア』から彼女に届いた。


「よくお聞き『マイ』。あなたは『リカーナ』の娘の一人『アロマ』の力を受け継ぐ『レムリアの王女』です。その力は、しばらくは『レムリアの戦士』を呼び寄せる事が出来ます。わたしから『マイ』はそのコマンドを受け継いでいるのです。呼び寄せなさい、レムリアの戦士を、一緒に敵と戦い守リなさい、あなたの大切な仲間を」


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