ラグナの羽化
ラグナの羽化
「おお、それがお前の姿か」
緑龍の姿に、黒龍が目を見開いた。鱗の色以外確かに寸分と変わらない姿だ。
「あれが、ミコの竜化した姿なのね」
ミーシャは気が付き、立ち上がった。そしてなっぴに言った。
「なっぴ、あの黒龍はミコに任せて、わたしたちはラグナを今のうちにたおしましょう」
ミーシャの声に目を開けたセイレも続いて起き上がった。
「そうね、コンビネーション攻撃をしてみましょう」
「よおし、オローシャ・ピリリカ!」
ミーシャの雷針に向けてセイレが氷結呪文をとなえる。
「オローシャ・カムイリカ!」
しかしラグナの硬い皮膚はそれをまったく受け付けない。跳ね返る氷の槍をはじき飛ばしながらなっぴがバッタを召還した。
「着装、グラス・ホッパー」
高く跳躍した後、垂直にラグナの眉間を打突したなっぴ、それでも強靭な皮膚を打ち抜く事は出来なかった。
「なんて硬い皮膚、こいつに末魔って本当にあるの? テンテン」
「テンテンはコマンダーの中で懸命にラグナをスキャニングした。しかし硬い皮膚の下は何も映らない。その中でラグナはドロドロに解けているのだ。
「なっぴ、こいつ。この中で細胞を再構築している、この体は『蛹』だわ」
「不完全変態と完全変態を併せ持つってこと? こいついったいなんなのよ」
なっぴはラグナの持つ羽化までのプロセスに驚いた。その話を聞いていたのは、戦う武器を持たないアガルタの王子「タケル」だった。
「カイリュウ族の『竜化』の術もムシビトの『メタモルフォーゼ』もこの世から無くなるものではない。それに『覚醒』するものが限られているだけの事なんだ」
「ラグナはそのもっとも古いプロセスを持っているという事なの? あなたは何故それを知っているの?」
なっぴは思わず問い直した。
「俺は、父上が『シュラ』をもう一度封印した時に覚醒し『竜化』したのだと思っている」
タケルはそう、不思議にもさらりと言ってのけた。
(何の確信があるのだろう?)
なっぴは再び跳び上がりながらそう思った、そしてラグナの目を打突する。しかしここも同じく「末魔」ではない。テンテンが必死でラグナのマルマを探す、しかしそれが見つからない。まるでラグナは堅い殻を残して消え去ったようだった。生体スキャンにもテンテンの触覚にもその反応すらないのだった。
「こんな馬鹿な事があるの? まるでこのラグナは脱皮後の抜け殻の様だわ……」
テンテンはそう結論づけるしかなかった。
「抜け殻、そうか。そう言う事か!」
テンテンのその心が伝わったなっぴは、音もなく岩の上に降り立った。そしてバイオレットキューを握り直した。そしてラグナに背を向けてゆっくりとセイレとミーシャに近づいた。二人は攻撃を中断したなっぴに声をかけた。
「なっぴ、諦めるの?」
「ラグナが羽化するまでもう時間はないのに……」
しかし彼女は首を横に振った後、二人にこう言った。
「こんなの何度攻撃したって無駄よ、時間の無駄だわ。そうでしょう? 臆病者のダーマ」
なっぴはそう言うと床にあった「ブルー・メラン」を拾い上げそれを飛ばした。青いアイテムはラグナから遠くはなれた岩にまっすぐに向った。
その上にあるのはダーマが着ていた黒いフード付きの服だった。その服が横に動き、ブルー・メランを避けた様に見えた。
「なぜ、わかった」
そう言いながら、その服の下から這い出てきたのは既に羽化を完了した『ダーマ』だった。その姿はさっきのダーマよりも逆に一回り以上も小さかったのである。
「まんまと騙されるところだったわ、やっぱり私は『見習い』がなかなか取れない『マンジュリカーナ』なんだわね」
「あのまま、攻撃をしていればよかったものを。呪力を使い果たさなかったのはわしの誤算だったな、三界の巫女ども」
「三界の巫女?」
「天、地、海の三世界の巫女。『マンジュリカーナ』『オロシアーナ』『エスメラーダ』そうお前たちの事だ」
「その中で待っていたのね、その時を」
「わしは、あいつらと違って、野蛮ではないのでな。くくくっ」
ダーマが果てしなく死闘を続ける「黒龍」と「緑龍」を見上げて笑った。




