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なっぴの昆虫王国 シュラ編  作者: 黒瀬新吉
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青いかもめ

 『青いかもめ』


『青いかもめ』とはアカデミアの『海洋研究センター』のひとつで、潮岬の南方の小島にある。そこには、タイスケの論文を参考に開発した『新素材』を外殻にした『シーラカンス』と同じく、理論上は深海一万メートルに耐えられる潜水艇『シーラ2』が保管されていた。マナトへ向かうには『シーラ2』を手に入れなければならない。


なっぴたちは二つのグループに分かれて集合場所と時間を決め、それぞれの方向に向かって走り出した。

「井上教授に協力を頼むしか無い」

かつては『トレジャーハンター』として世界中の深海に潜った事のある『イノウエ』だ。タイスケはマイと二人で教授の故郷『広島』に向かった。一方『セイレ』と『ミコ』はなっぴとともに一度、アカデミアに戻る事になった。

「きっと何か手がかりがあるはずだわ」

すでに空っぽなことに腹を立てたのか、何者かに運び出された『ミドリアコヤガイ』は、今朝海岸近くで見つかり、ついさっきアカデミアに戻ったという連絡をなっぴは受け取っていた。

(セイレの記憶が戻るかも知れない)


『セイレ』は人魚の王女だ。しかしまるで普通の人間と同じように歩き、走り、そして跳ぶ。少なくとも陸上生活に何の不自由も感じていない様だった。彼女には何か秘密があるに違いない、『ミドリアコヤガイ』をもう一度なっぴは調べてみようと思っていた。バスで『アカデミア』に向かったのは、人ごみにまぎれた方が敵に狙われないだろう、と考えたからだ。乗客が次第に減った。海洋研究センターには休日はそれでも観光客が訪れるのだが、今日は台風の影響が残っていて『青いかもめ』行きのホーバ・クラフトもいつ出航出来るのか未定だ。


「セイレ、ぴったりね、青葉の制服。着替えになればと持ってきたけど。私のお古だけど、気に入った?」

「人間の服は胸が締め付けられて苦しいわ、反対に腰から下が風邪ひきそう」

彼女の言葉になっぴは、まじまじとセイレの胸と自分のふくらみを比べて見た。

(うーん、少し落ち込むな)


「さあ、お腹も空いたでしょうね。。人間の食べ物で、何か食べれるものある?」

アカデミアの食堂に入ると、なっぴは二人にそう尋ねた。テーブルにメニュー画面が浮かび上がった。『セイレ』は迷わず好みのメニュー画面を押した。

「私、カツ丼。それと海藻サラダね、やっぱり」

目を丸くした二人にミコは笑いながら言った。

「セイレ様は、なっぴ様の親戚なのですよ。人間の血も流れていますからね」

「ええっ!一体どういう事?」


第一の刺客


三人が食事を終え、グレープジュースがテーブルに運ばれてきた。ここでは既にメイド型のアンドロイドがその役目をこなしている。『セイレ』は彼女の青い目をじっと覗き込んでいた。

「きれいな青い瞳、どこかで、ウーン……」

彼女が椅子から床に落ちた。

「姫様っ!」

ミコが彼女をすくい上げた時、三人の回りに黒い霧が吹き出し異形な男が現れた。


「何者っ!」

なっぴの問いにはまったく応えようともせず、男はサングラスを外した。その目に視力はなさそうだった、その代わり途中が折れ曲がった長いひげを生やしていた。鋭い歯を持つ魚人の姿だった。ミコはその男を知っていた。

「おまえは、『ムラサキホシエソ』の魚人、ギバはカイリュウの力を何故持っている?」

「ズリュリュリュ、『ソドル』と言う。まあ二度とお前たちに名乗る事は無いだろうが」

黒い霧の立ち込めた食堂の空間が、ぐにゃりとネジ曲がり、なっぴたちは、次元のはざまに滑り込んでいった。


「次元を操れるのか? いったいギバはどんな奴なのだ」

ミコは上着を脱いだ。銀色の身体の魚人が現れた。

「ほほう、わしと戦うというのか。ひ弱なその身体で。なんと律儀な事だな」

「姫を守るのが俺の役目だ、さあ来い」

魚人の頬とヒゲの先の発光器が怪しく光り、鋭い牙が開いた。そして口から、ドロドロに溶けた塊を続けて二つ吐き出した。

「グェッ、グェッ」

二つの塊はひと回り小さな魚人に変わった。


「何よ、あんたたち!」

「そいつは『オオカミエソ』。わしの手足となるもの、そいつらを任せたぞ」

なっぴはセイレを抱き起こしたものの、戦う術を思いつかなかった。

(私の虹色テントウは、次元の谷を埋めるために力を使い切ってしまった、使えればこんな奴らには負けはしないのに)


挿絵(By みてみん)


香奈の『マンジュリカの玉』によって、テントウが目覚めたばかりだった。『オオカミエソ』が大口を開けてなっぴに飛びかかる。彼女は間一髪後ろに飛び去り、そのアゴを蹴り上げた。

「グギュ、やったなこいつ」

その程度では魚人はひるみもせず、再び立ち上がった。

「セイレ、しっかりしてよっ」

相変わらず気を失ったままのセイレをかばいながら、近づく魚人を彼女は睨んだ。

「勇気だけはほめてやろう、小娘」

しかしなっぴの頭を狙った魚人のアゴは空を噛む。彼女は背面に宙返りをし、寸手の所でその歯をかわし、今度はその鼻先に向け、組んだ両手の拳で殴りつけた。

「ググッ、苦しまないようにしてやろうとしていたのにな、もう容赦はしないぞ」

魚人は背びれの骨を一本抜きそれを長刀に変え、彼女に突きつけた。


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