父狼の旅 1
雪の国、人のいない山の、さらにその奥の山々。
そこの一つに、狼の親子が住んでいました。
父狼はとても強く、とてもきびしい。
子狼はとても弱く、とてもやさしい。
そんな父親と息子ではありましたが、親子のきずなは深かったのです。
息子は毛色がほかの狼とはちがっていました。彼の毛はあおく、すんでいたのです。
狼の中で息子はきらわれていました。毛の色がちがうというだけで、きらわれていました。
父狼は息子のため、ひっしで狼たちに言いました。
『息子の毛はあおいが、とてもいい子だ。やさしい子だ。だから仲間に入れてやってくれないか』と。
ですが狼たちは言います。
『そんなことは関係ない。だってそいつは毛があおいんだ。その毛が黒か灰か白にならない限り、仲間に入れるつもりはない』
『ちがう色の狼は仲間じゃない』
『そいつは狼じゃない』
みんな、息子を受け入れるつもりはありませんでした。
父狼は毎日、毎日、何度も何度も狼たちにたのみました。息子を仲間に入れてくれ、と。
狼である父親がいなくなれば、彼はこどくになります。誰も仲間がいない。それでは生きていけません。狩りもむれでなければむずかしいのです。
父狼はあきらめませんでした。
さいしょは言葉でイヤだと言っていた狼たちも、どんどんイライラしてしまい、父狼をいためつけはじめました。
それでも父狼はがまんしました。いたくても、くるしくてもがまんしてたのみました。
『どうか、どうかおねがいだ。息子を仲間に入れてやってくれ』
ひどいことをされても、どれほどはずかしい目にあっても、父狼はあきらめません。
自分よりも若い狼にばかにされても関係ないのです。
息子は父狼のすがたをみて、なみだをながします。
『お父さん、ぼくはだいじょうぶだから、だいじょうぶだから』
『だいじょうぶ、お父さんにまかせていればだいじょうぶだ』
互いに、だいじょうぶ、だいじょうぶと言いあいます。
息子は、じぶんのせいで父狼がたいへんな思いをしていることを知っています。どうにかしたい。けれどどうにもできない。自分のからだが変だから、みんなとちがうから、父がきずついている。とても心をいためていました。
父は、きびしい父狼ですが、それは息子にむりをいうわけではありません。彼は自分にきびしいのです。息子のためならばどんなことでもがまんできる。それが父だ。そう考えているのです。けれど、どうにもならず、息子のかわいそうなすがたを見て、とても心をいためていました。
ある日、息子は言いました。
『ぼくがいなければ、お父さんはしあわせなのに』
父狼は、とてもおどろき、かなしそうに言いました。
『そんなことを言ってはだめだ。お父さんはおまえがいるからしあわせなんだから』
息子はよろこびながらも、こまったようにわらいました。
そして、ある日、息子は家からいなくなりました。