父狼の旅 2
息子がいなくなった父狼は、とてもかなしみました。
そして、狼たちにこう言われました。
『よかった、よかった、これで、みんなしあわせだ』
父親はよろこびながら、おどっている狼たちに聞きました。
『どうしてだ?』
『そんなこときまっている。これで、おれたちはいつもどおりでいられるんだ。いつもどおり生活ができる。それはとてもしあわせなことだ。まがいものがいると、いつもどおりにできない。それはふこうなことだ』
父狼は息子がいなくなり、よろこぶ狼たちをゆるせないきもちになりました。かれらはいつもどおりのために、息子を追いだしたのです。
何度もたのんだのに、がまんしたのに、狼たちは息子を受け入れなかったのです。いつもどおりのために、息子をきずつけたのです。
父狼はかなしみのあまりあばれまわりました。狼たちをきずつけて、なきました。
父狼はとてもつよいのに、息子のためにがまんしていたのです。
狼たちは父狼をおそれて、言いました。
『で、出て行ってくれ! おまえはいつもどおりをこわす!』
こわがっている狼たちは、父狼を追いだしました。父狼はもう、狼たちのことは気にしていません。息子のことだけを考えていたのです。
『お父さんが、見つけてやる。また、いっしょにくらそうと言うんだ。わたしは、おまえがいないとしあわせになれないんだ』
父狼は旅に出ることにしました。息子をさがす旅です。
どこへいったのかわかりません。けれど、父狼には一つだけ思い出したことがありました。
息子は、もし、山を下りるならば、東にある、海に行きたいと言っていたのです。
海はとても広い水のたまり場です。そこにいる、かめという生き物に会いたい、そう言っていたのです。
もしかして、そこにいるのかもしれない。そう思った父狼は山を下りました。
ずっと山に住んでいた父狼は、冷たいところになれていました。山にはたくさん雪がふるからです。だから山を下りておどろきました。とてもあついのです。
山を下りると、雪はなくなっていて、空は息子の毛のようにあおかったのです。とてもつらかったけれど、息子のことをおもって、父狼は旅をつづけます。
山を下りて、すすむと平原にでました。
とてもひろく、なにもないばしょでしたが、父狼はまっすぐすすみました。
すると、途中でハイエナがシマウマたちをおそっていました。
父狼はかんけいがないとおもい、すどおりしようとしました。
けれど、いっぴきのハイエナが父狼に気づきました。
『おいおい、なんか変なやつがいるぞ』
狼は山の上にしかおらず、ハイエナたちは狼をしらなかったのです。
ハイエナたちはずっとじぶんたちがつよいとおもっていましたが、それは他のどうぶつがとてもよわかったからでした。
ハイエナはとてもつよい狼をしらなかったのです。
『ああ、どうか、おたすけください。旅の人』
今にも食べられそうなシマウマが父狼にたすけをこいます。
父狼はシマウマをむししようとしましたが、ハイエナがじゃまをします。
『おっと、タダでとおれると思うなよ』
相手はおおいですが、父狼はとてもつよいので、かてます。
ですが、めんどうなことがいやだと思った父狼は言いました。
『どうすればよいのだ』
『シマウマを三匹とってこい、そしたら通してやる』
どうやらハイエナは自分達でえものをとることがめんどうになったようでした。
めのまえに、今にも食べられそうなシマウマがいるので、ほかに三匹とってこいと言っているようでした。
父狼もシマウマを食べることはあります。
ですが、どうしたことか、その時、父狼はとってもイヤな気持ちになりました。
『ことわる』
『なんだと? どうしてだ? ここを通りたくないのか?』
『通りたいが、おまえたちに許可をもらうひつようはない』
そう言った、父狼はハイエナたちをこらしめました。
とてもはやく、とてもつよい父狼に、ハイエナたちはなにもできません。
『うわ! なんてつよいんだ、ばけものだ! 逃げろ!』
五頭いたハイエナたちは、たった一匹の父狼におそれをなして、にげていきました。
残ったシマウマは立ち上がりました。
『ありがとう、助けてくれて』
『そんなつもりはない』
なんとなくイヤだっただけで、シマウマを助けるつもりはありませんでした。
父狼はさっさとさきにいきましたが、シマウマがついてきます。
『ついてくるな、食べてしまうぞ』
『どうか、おそばに。私ができることはなんでもします。どうか』
シマウマはどうやら父狼に恩をかんじているようでした。
何度もついてくるな、と言ったのですが、シマウマは聞きません。
食べるつもりもないので、父狼はなにもいわなくなりました。
こうして二匹の旅がはじまりました。