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 ―――つまり、魔法……従来からある魔法を使うのに必要なのは、術者が持つ『魅力』、そしてそれを使える力となる『魔力』です。


 魅力と魔力を兼ね備えた人間が魔法使い……今でいう、『古代魔法使い』として認定されるのです。


 昔からの論争にあるのが、魅力は魔力と同等ではないかというものですが、「精霊を見る事が出来る、精霊の声を聞くことが出来るが従わせることが出来ない人間」が数多く存在おり、彼等の存在を考えると、必ずしも魅力と魔力は同等の力として認識されているわけではないようです。


 では何がその二つを分けているのか……魅力とは? 魔力とは? という疑問がわきます。


 その解決の糸口となるのが『ユノの端』で――――







 チャイムが鳴り、講義の終了を告げる。


 フィン・コールリッジの『基礎魔法』の講義には大勢の学生が参加し、普段講義に参加しない研究生の姿も沢山見て取れた。


 中でも目立つのが学院一優秀でイケメンのロス・ガーランド。

 次に、次席で教授からの評判も宜しい、品行方正な才女、マールディア・コナー。

 ミス・学院で奇抜な発想から様々な魔法道具を作り出し、自由な発想が強みのホノリア・ヴィレッジ。

 そして、機械魔法の集大成ともいえる魔法列車の運営会社の御曹司で、エンジンの開発にも携わった魔法技師のレジナルド・クレンツ。


 この四人はとにかく目立つ。


 終始一緒に居るわけでもなければ、チームを組んでいるわけでもない。

 どちらかというとライバル同士といった間柄で、お互いがお互いをけん制しているような所もあった。

 全員が研究生なので、有名な彼等が一堂に会する事は無い……のだが、今回、コールリッジの講義で四名が揃い踏みしたために、一般生徒の間で黄色い悲鳴が上がる始末だった。


 中でもロスとホノリアは入学した十代後半から見目麗しいことで有名で、ひっそり付き合っている説が流れていた。それが二か月前に「交際宣言」をしたものだから、有名カップルを一目見ようとブルーム館をうろつく生徒が倍増したほどだ。


 遠巻きに見られているのを意識しながら、レジナルドが愛想のいい笑みを浮かべてロスに近づく。


「珍しいなガーランド。お前、講義には一切参加しない宣言して無かったか?」

 ぽん、とロスの肩に手を置けば広々とした階段状の講堂最下層から悲鳴が漏れる。

 振り返って、にやけた笑みで手を振るレジナルドに、ロスは呆れたように首を振った。


「トリ頭のお前にしては良く覚えてたな」

「誰がトリ頭だ、誰がッ」

 お前はな、ただ単に顔が良いだけで騒がれてるんだぞ? その事を肝に命じて置け。


 ぶつぶつと言いながら、レジナルドが持っていたケースからクッキー缶を取り出す。

 くるくると蓋を回してクッキーを摘み上げ、無造作に口にする様子にロスの眉間に皺が寄った。


「…………うまいか、それ?」

「へ?」


 もっふもっふと口いっぱいのクッキーを咀嚼する、日に透ける栗色の髪の男。同じような、ややオレンジ掛かった瞳を丸くするレジーに、ロスは首を振った。

「いや、お前に訊いた俺が馬鹿だった」

「をい!」


「美味しいかどうかなんて、あなただって知ってるじゃない」

 隣に座っていたホノリアが、羽ペンを仕舞いながらロスを見上げた。

「ていうか、学院中が知ってるでしょ?」

「…………まあな」


 確かに。確かにそうだった。

 ……つい、昨日までは。


 赤い髪の自称魔女は、不味いとはっきりきっぱり言っていた。


 見た目と全く違う味がするのは、気持ち悪いと。


「変だぞ、お前」

 難しい顔で考え込むロスを他所に、レジーは最後の一欠けらを押し込むと「今日の昼食終了」と満足そうに唸った。


「今日は何の味なわけ?」

「タラとジャガイモのシチュー」


(タラか……昨日喰ったスープもそれだったよな……)


 全く味のしない、ぼろぼろ崩れる粘土を噛んでるようだった。だが、欠食児童は足りないカロリーを埋めるがごとくそれを口に詰め込んでいた。


「で、結局なんでお前、ここに居るんだ?」


 最初の質問が戻って来た。


「部屋に女を住まわせることにしたから罪滅ぼしに」


 ぶは、と吹き出すレジーと「ちょっと!」と怖い顔で睨んでくるホノリア。彼等をまるっと無視し、ロスは立ち上がった。


 つまらない講義に一時間半、耐えたのだ。

 残りの時間は有意義に過ごしたい。


「大胆だな、ロス……俺にはまねできないぜ……」

「真似しようにも彼女すらいないだろ、お前」

「誰かこいつを殺してくれないかな、世の男どもの平和の為にッ」

「ガーランド君」

 首を締めようと手を伸ばしてくるレジーを煩そうに追い払っていると、下から声が掛かった。

 見れば今回の件で評判が、白からグレーに転じたコールリッジがこちらを見上げていた。


「君に参加してもらえるとは、光栄だね」


 フィン・コールリッジはショートヘアですらりとした身長の女性だった。

 赤い髪が窓から差し込む陽光にちらちらと光っている。大きな緑の瞳が猫のような印象を彼女に与えていた。

 ダークグレーのパンツスーツに、白のコートという姿は美青年然としていた。


「義理で参加しただけです」


 つらっと答える。それに、コールリッジは破顔した。

「流石、学院一優秀っていう肩書は伊達じゃないね」

 からからと笑う彼女に、ロスはじっと視線を注いだ。


 もし彼女がニセモノなら、彼女は魔法使いではない筈だ。よって、何か術を使う際にはキャンディとコクーンが必要になる。

 今のところ、只の講義のみで実演は無いからそう言った道具を持ってはいない。


(何かの拍子に実演を求めてみるか……)


 目を細めて考えていると、フィンの隣に進み出る女がぎろりと彼を睨むのが視界の端に映った。


 コナーだ。


「そういう、一々失礼な発言は慎んでいただきたいですね」

 声を張り上げるコナーに、ロスは怪訝な顔をした。


 何故彼女がここに居る?


「コナー、お前、何時からここに居る?」

 は? とマールの顔が歪む。

「もちろん、講義の一番初めからです」


 その瞬間、ロスの身体を嫌な予感が駆け巡った。


「…………あのニセ魔女はどうした?」

 知らず身を乗り出すロスとは対照的に、マールは冷笑を返した。

「あの方でしたら、明日からの講義の準備でもなさってるのでは? 使われてない場所で」


 ロスの身体から血の気が引いた。


「誰が一緒に居る!?」

「え?」

「あのニセ魔女と一緒に居る奴だよ! 監視するって話しだったろ!?」


 机を回って階段を降りるロスの形相に、マールは不愉快そうな視線を返した。


「あの方のどこが脅威だというのか私にはさっぱり」

「誰も付いてないんだな!?」

 噛みつくように怒鳴るロスに、マールは挑戦的に顎を上げた。

「ここは魔法の研究機関でもあるんです。あんな小娘一人どうってこと」

「それを判断するのは君じゃない」

 唸るように呟き、ロスが大股で講堂を出て行く。


 その様子をぽかんと口を開けて見送っていたレジーが、興味津々といった眼差しをホノリアに向けた。


「何? 何が起きてるわけ?」

「ロスの部屋に転がり込んだ女の話よ」

「ええ!? それを巡ってマールと揉めてるのか? で、君の立ち位置は?」


 うきうきしたレジーの台詞を綺麗に無視して、ホノリアは優雅に階段を下りた。


「頭が良くても、危機管理がなってないんじゃどうしようもないわね」


 ちらりと横目でみやり、痛烈に皮肉る。人一人射殺せそうな視線をマールはホノリアに向けた。


「その台詞をあなたの口から訊くなんて。ついさっき、ガーランドはタオル一枚巻いただけの恰好で私とあのニセ魔女の前に立ってたわよ?」


 危機管理がなってないのは、アナタの方じゃないの?


 銀色の稲妻が、二人の視線の間に飛び交う。


「あなた……まだ根に持ってるの? 彼が、この、私を選んだ事を」


 腕を組み、小首をかしげ嫣然と微笑むホノリアに、かあっとマールの顔に血が上った。


 頬が桜色に染まる。


 だが、そのまま黙り込むかと思われたマールは、意外にも堂々と宣言した。


「ええそうね、彼の愚行は山のようにあるけど、一番はあなたを選んだことだと思うわ、ホノリア・ヴィレッジ」

 なんの品性も知性も無い、あなたをねッ!


 先程までの稲妻が、遂に火花をまき散らす。


(へー……あの優等生のマールがロスをねぇ……)


 女同士の応酬を遠くから見詰めながら、レジーは机に座ったまま頬杖を付いた。


 学院の男子人気を二分する美女二人が、ロスを取り合っている……。


 なんとも……なんとも不公平な世の中だ。


 が。


「すべからく……世の中とはそういうものか……」

 がっくりとレジーは頭を垂れた。


 決して……決してそうじゃないと思いたい。

 普通男子の俺にだってきっと美女が振り向いてくれる時が……。


「その為には、己の魅力を磨く事だ。クレンツ君」


 不意に声を掛けられ、レジーは顔を上げた。

 いつの間階段を登ったのか、緑の瞳をきらきらと輝かせたフィンが真横に立っていた。

「先生……」

「女は外見だけじゃない、男の心意気にも惚れるものだ」


 ロスにどんな心意気があるんだよ、と突っ込みたいのを呑み込み、レジーは溜息を吐いた。


「ええ。それと……財力も加味して置いてください」

「嘆くな嘆くな」


 豪快に笑いながら、フィンはレジーの背中を叩いた。意外と力が強く、思わず咽る。

 その彼と、嫌味の応酬をする女子二人を見ながら、フィンは意味深に笑った。


「嘆きも怒りも苦しみも……負の感情すらもヒトの魅力というものだよ」




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