1
色とりどりの煙と雲が漂う王都上空。
紫とピンクの雲の間に目を凝らし、『ユノの端』の観察をしていたロスは、よれよれとした何かが視界を横切って行くのに気付いた。首からぶら下げていた金色の双眼鏡を取り上げ覗く。
「―――トリか?」
なんとなしに独り言を呟き、薄い水色の瞳を凝らしてじっとその軌跡を見詰める。
途端、明るいグリーンの煙がふわりと漂い視界を遮ってしまった。
ち、と舌打ちし双眼鏡を下ろす。
もう一度目を凝らしてじっと眺めていると、ゆっくりとグリーンの煙が晴れ、その向こうに再び、へろへろと飛ぶ何かが見えた。
「精霊か?」
再び双眼鏡を構えて目を凝らす。
ロスは精霊が好む『魅力』が高く、現代において『古代魔法使い』並に精霊の姿を眺めることが出来た。
だがその精霊を使役するだけの力は無い為、やはり魔導学院在学中の他の生徒と同じように『コクーン』と『キャンディ』を使った『保存魔法』を主に使っていた。
だが彼は良く、他の学生には見えない自分に力を貸してくれている精霊達を見た。
今ゆっくりと……でも確実にオカシナ軌道を描いて飛ぶ『何か』もその精霊なのかとじっと見詰めるが…………どうやら違うらしい。
第一に精霊はあんな風に『よれよれ』飛ばない。
第二に彼は主に、キャンディに寄って来る精霊を見るのであって、あんなに離れた上空を飛ぶ存在を見たことが無い。
となると。
「…………人か?」
結果、出て来たのはその単語で。
「――空飛ぶ……人?」
―――なわけあるか。
自分の突拍子も無さに鼻で笑い、双眼鏡を下ろそうとした瞬間。
彼はぎょっとして目を見張った。
何故なら双眼鏡の向こう、よれよれした軌跡を描くものの『実態』を、彼の氷のような瞳が捉えたからだ。
それはまごう事なき……人だった。
そう。
黒のマントをはためかせ、濃い青のドレスを着、箒に跨って飛ぶあれは、れっきとした人間だったのである。